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「あんまり僕の妹に懐かないでね? あの子、君に情が移っちゃうから」

「いもうと?」

「あぁ、僕の妹の名前は」



 続いたのは名前ではなく、キィーンと金属がぶつかる音だった。


 お兄さんが続けようとした言葉は新たな人物の登場で尻切れ蜻蛉とんぼを余儀なくされたのだ。



「随分と乱暴な再会の仕方だね、僕の可愛い可愛い妹は」



 黒揃えのスーツの上に白衣を着た奏様が手にしていた日本刀でお兄さんに袈裟懸けに斬りかかったのを、お兄さんがどこからか出した日本刀で受け止めていた。



「私の長兄はあの日あの時死んだ。今のあなたはほふらなければならない敵というだけよ」

「勝手に殺さないでくれるかい? 僕は今も昔も変わらないよ。君達が気づかなかっただけで」



 お兄さんはつば迫り合いが続いていたのを一度僅かに引いた後、押し出した。


 そして、トッと地面を蹴って後ろに二、三歩後退し、奏様との間合いをとった。



「もう行こう」

「そうだね。挨拶も済ませたし」

「……栄太えいた

「奏お姉ちゃん、またね?」



 去り際に、スーパーで会った方のお兄さんに視線だけで殺されるんじゃないかと思えるほどの視線を寄越された。


 幸せなことに、今まで十何年生きてきてそういう視線に慣れていない。


 思わず橘さんの腕にしがみついてしまった私の背を橘さんがそっと優しく擦ってくれた。



「それじゃあ、ね。奏、踏み込みがまだ甘いよ。精進するように」

「……」



 奏様が悔しそうに唇を噛み締めているのが分かる。


 それを満足そうに見て笑うお兄さんが刀を一振りすると、再び風が起きた。



 風が見える。


 その表現はおかしいけれど、それ以外の表現が見つからない。


 風が形になって私達に次々と襲いかかってくるのだ。


 だけど、その風達は千早様とアノ人の張った結界のおかげで霧散していった。



 気づいた時には二人の姿は消えていた。



「先程の二人が黒幕と考えても?」

「……」



 橘さんの問いに奏様は答えない。



「あっ、雅さん!?」



 橘さんと帝様の腕の中から抜け出て奏様の後ろに立った。


 そっと手を伸ばすと、奏様に一瞬昏い眼を向けられた。 



「奏」

「……あ、ごめんなさい」



 刀を鞘に納めた奏様がしゃがみこんで私の頭に手を乗せてきた。


 すごく歪な笑顔を見せてくる奏様。



「だいじょーぶ?」

「……えぇ。心配いらないわ」



 全然心配いらないようには思えないんだけど。


 いつもと全然様子が違う奏様に、私がしてあげられることは……。



「あっ!!」



 良い事思いついた!!



「たちばなさん、けーたい、かしてくださいな」

「携帯ですか? 構いませんけど。何をするつもりですか?」

「いーからいーから」



 橘さんがスーツのポケットから取り出して貸してくれたスマホで最近覚えた連絡先に電話してみる。


 会議中とかじゃないといいけど。



『はい、もしもし?』

「あっ! こんにちは!」

『その声……雅ちゃんじゃない!! あら、どーしたの? 橘さんからだと思ってびっくりしちゃった』

「きょうっておみせあいてましゅか?」

『大丈夫!! 店休日だけど、試作品作ってるから、遊びにいらっしゃい』

「るいおねえちゃま、あいしてるっ!!」

『フフフ。知ってる! じゃあ、迎えにいきましょうか?』

「んーん。あのね、わたしの、えっと、その……」



 奏様と私の関係をなんて説明したらいいんだろう?



『誰か他にも連れてきたい人がいるの?』

「あい。いーですか?」

『えぇ。もちろん。雅ちゃんの知り合いなら構わないわ』

「ありがとーございます! じゃあ、いまからいきます!!」

『えぇ。気をつけていらっしゃい』

「あい!!」



 察しが良くて優しい瑠衣さんのおかげで話がとんとんと進んだ。



 さ、今日はとりあえず修行は後回し。


 まずは奏様を元気にしてあげることが先決だ。


 瑠衣さんの甘味処までみんなで行きましょう!!



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