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 門を出て、いつも行くコンビニと公園をまず目標に出発!



 綾芽達はついてきて……ないな。


 あの密談の様子からしてついてきそうな雰囲気だったけど、気のせいだったみたい。


 それはそれでいいんだけど、なんだか拍子抜けって感じが否めない。



 まぁ、気分は上々。 鼻唄もでちゃいますよ?



 「ふんふ、ふーん」



 おっつきみ、おっつきみ~。


 お団子、お団子~。



 テクテクテクテクと歩道を歩いていると、公園が見えてきた。


 いつもは綾芽と散歩の途中で立ち寄ることが多いこの公園には、前にコンビニで会った健くんがお母さんとよく来ている。



 今日はどうかな~?



 公園の中を覗いてみると。



 「あ、みやびぃ~!」



 公園の中ではなく、健くんの家がある方から健くんの声がした。


 振り返ると、こっちに向かって走ってくる健くんと、それを追ってゆっくり歩いてくる健くんママ発見。



 「たけるおにーちゃん、おはよぉ!」

 「おはよ! きょうはなにしてあそぶ?」

 「ごめんしゃい。きょうはおつかいのとちゅーなの」

 「おつかい?」



 てっきり私も公園に遊びに来たと思ったらしい健くんが、首を傾げて聞き返してきた。


 おつかいという単語にまだ馴染みがないのか、不思議そうにしている。



 「まぁ、おつかい?」

 「あい。おつきみのじゅんびするの」

 「そうなの。大丈夫? 一人で行ける?」

 「だーいじょーぶ。まっかせなさーい!」



 私は拳でドンと胸を叩いて見せた。


 それでも心配そうにしてくれる健くんママは視線を彷徨わせ、何かに気付くと安心したように表情を和らげた。



 なになに? 何かいるの? やっぱり綾芽達ついて来てる?


 そう思ってそちらを見ても、誰もいない。



 んん~? まぁ、いっか。



 「……大丈夫そうね。じゃあ、車に気をつけて、頑張ってね!」

 「あい! たけるおにーちゃんたち、ばいばーい」

 「おう! またな!」



 健くんと健くんママと別れ、目指すはこの道まっすぐの業務用スーパー。


 もうちゃんと看板は見えている。


 自然と歩くスピードが早まり、私は第一の関所“業務用スーパー”へと脇目もふらずにひた走った。



 業務用スーパーの中に入ると、買い出しに来ている主婦や小さな子供連れの親子の姿が目立っている。



 んん~。さすがスーパーなだけあって広いよなぁ。


 しかも、この身体だからなおさら。あれだ、迷路みたい。



 さて、ここで買うのは絹豆腐と里芋。


 里芋は野菜売り場だと思うから……先に看板を探して……あった!



 天井からぶら下げられている看板を少し離れた所に見つけ、逆方向から来る人とぶつからないように避けて走った。


 野菜コーナーの前で、背中に背負ってるうさちゃんリュックからメモを取り出してっと。



 里芋は何個買えばいいんだっけ?


 ……五個? 五個で足りるのかなぁ?


 まぁ、薫くんがそう書いてるんだから間違いないでしょう。



 問題は……取れないのよ。里芋。


 背伸びしても、届くのは里芋の下の段にある小松菜まで。


 知ってた。届かないって、このコーナーが最初に目に入った時から知ってたけどっ!!



 ……店員さんはどこにおいでですか~? 



 探している時に限って店員さんはいない。


 いても忙しそうにレジ打ちしているお姉さん達だけ。


 これはもう自力でなんとかするっきゃない。



 店員さんを諦めて、野菜コーナーに戻った。



 すると、先程まではいなかったマスクをつけたちょっと猫背のお兄さんが、丁度里芋を取ろうとしているではあ~りませんか!!



 これはもう天の助けだね! 日頃の行いが良かったからかな?



 「あのぉ~。すみましぇん」



 先に言わせてもらいたい。


 決して大声で言ったわけでも、喧嘩腰に言ったわけでもない。


 なのにどうしてそんなビクついて、しかも驚愕の眼差しを浴びなければならないのでしょう?



 「為什麼在這浬?」

 「え?」



 お兄さんの言っている言葉の意味が分からなくて、思わず聞き返してしまった。


 どうやら中国の人だったらしい。


 残念ながら英語すら怪しい私は、他の言語を操れる頭脳は持ち合わせていない。



 でも大丈夫。万国共通語、それは笑顔ぞ!!



 「それ、ごこ、とってく~ださ~いな」



 お兄さんが持っている里芋を指さし、片手を広げて見せ、最後に並べられている里芋を指さす。



 「あ、好」



 お兄さんも理解してくれたらしく、若干恐る恐る手渡してくれた。



 「ありがと~ございましゅ。えっと、謝謝(ありがとう)」

 「……不要客氣」



 お兄さんは私が中国語でお礼を言うとは思わなかったのか、先程とは違い、きょとんとした目で私を見下ろしてきた。


 それも束の間、にっこりと笑い、頭を撫でてくれた。



 今度はなんて言ったのか分かった。確か、“どういたしまして”だった、はず。


 劉さんにちょこーっと教えてもらったんだけど、あってるかなぁ?



 里芋も無事ゲットしたし、お次は絹豆腐だ。



 「おにーちゃま、バイバーイ」

 「あ!」



 うわっ! なになに!?



 豆腐がありそうな場所に行こうと立ち去りかけた時、後ろから肩をガシッと力強く掴まれた。


 ビックリして振り返ると、お兄さんが視線を合わせるためにしゃがみ込んでくれた。



 「あー、ベツ……ホカ? ナイ?」

 「うん? ……ありましゅ! きぬどーふ!!」

 「んー……コッチ、クル」

 「あい!」



 お兄さん、日本語分かるの!?


 しかも、連れてってくれるって?


 なんて優しい人なんでしょ!



 手を繋いで、しばらくお店の中を歩くこと数分。



 最初はお豆腐の場所を探してるのかと思っていたけど、それにしてはお兄さんの挙動不審さが目立つ。


 もう見た方角にも関わらずキョロキョロと何度も見返しているのだ。


 終いには何かを見つけたのか、ヒッと軽く情けない悲鳴まで聞こえてきた。



 「おにーちゃま、だいじょーぶ?」

 「……」



 それは大丈夫じゃない時の笑みですね?


 夏生さんに隠れて悪さしてた時のおじさん達の誤魔化し笑いにそっくりだ。



 里芋を途中で見つけた買い物カゴにいれ、なんとか探し当てたお豆腐コーナー。


 その頃にはお兄さんは猛獣から命を狙われている仔ウサギちゃんと化していた。


 プルプルとビクビクが上手い具合に織り混ざっている。



 「……おにーちゃま、だっこ、してくーださーいな」



 ほらほら、何だか分かんないけど、怖いものをわざわざ自分から見つけに行かなくてもいいよ。



 だからね?


 こっちを手伝って欲しいな~。



 最後にグルッと辺りを見渡した後、お兄さんは改めて私を見下ろしてきた。


 視線の先には、両手を伸ばしてスタンバってる私。


 フッと何か決意めいた息を一つ吐き、お兄さんは脇の下に手を入れて抱き上げてくれた。



 「我不坏。我不坏」



 なにやらブツブツ言ってるけど、何て言ってるのか分からない。


 重いって言われてないのを祈るばかりだね。



 「あ、あれ! あのあおいやつ! あれをね~……いっこ? いっこでたりるの?」



 ついお兄さんに聞いてしまったけど、お兄さんも首を傾げている。


 そりゃそうだよね。



 「と、とりあえず、あれ、いっこ! とってください!」



 薫くーん、大丈夫なの~?


 みんなの分なのに。



 後はお会計だけだけど。


 私はちょっと心配です。



 とりあえず、無事に二つとも探し当てたので、レジで精算しよう。



 お兄さんがいてくれたおかげでとっても助かったけど、それでも時間がだいぶ経ってしまっている。


 早く次に行かなきゃ、帰りが遅くなって怒られる!



「おにーちゃま、おろして~」



 身体を揺すると、なにをして欲しいのか分かったらしい。


 すっごく丁寧に地面に降ろされた。



 やっぱりカゴは意外と重いから、いったん地面に置いて、バイバイと手を振ります。



「ありがとーごじゃいます。じゃあ、バイバーイ」

「バ、バイバーイ」



 ぺこりとお辞儀も忘れません。


 どうだ~。偉いでしょ?



 お兄さんもぎこちない表情を目元に浮かべ、それでも手を振り返してくれた。



 それじゃあ、もう一回カゴを両手で持って、レジに向かいますよー。


 レジの位置ならもう見つけてある。


 最初のお使いももうすぐ終わりだ。



 レジの近くまで行くと、見かねたレジのお姉さんがわざわざ回ってきて、カゴを受け取ってくれた。


 ほんと、もう、皆さんありがとうございます。


 みんな大好き!!



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