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 翌日、屋敷の厨房ははっきりくっきり明暗が分かれていた。



 「さー! 瑠衣様のお料理教室の開催よー!」

 「おー!」



 ルンルンと材料と器具の準備をする私と瑠衣さん。



 その一方で



 「綾芽死すべし。綾芽死すべし。綾芽死すべし」



 恐ろしげな文句をブツブツと呪文のように唱えながらガシャガシャと一心不乱にボウルの中の卵をかき混ぜている薫くん。


 瑠衣さんがここへ来るきっかけになった綾芽が親の仇より憎いとばかりに卵へその恨みをこれでもかというほどぶつけている。


 愛情込めて作った料理は美味しいと言われるが、果たして恨みを込めて作った料理はどれほどの味なのか。



 「あら? サランラップが足りないわね。ちょっと。買ってくるなり、出してくるなりして」

 「なんでここでするのさ。ここは僕のテリトリーなのに」

 「なんか言った?」

 「何も言ってません!」



 キレ気味に答えた後、薫くんは厨房の上の引き出しをゴソゴソとあさり、サランラップを二つ出してくれた。


 多少置き方が雑だったのはご愛嬌だ。



 「じゃあ、まず手を洗いましょう。指と指の間、爪の間もしっかり洗うのよ?」

 「あい」



 瑠衣さんは流石薫くんの姉弟子で、甘味処をやっているだけあってすごく手際が良かった。


 教え方もすごく上手くて、あっという間にお団子とお饅頭が出来ていく。


 たまーにつまみ食いをしたけど、ちゃんと売り物になるくらいの味になってるのにとても驚いた。



 「そうそう、上手上手。手の大きさがお団子こねるのに丁度いい大きさなのかしらね。とても筋がいいわ。どう? こんな男ばかりのむさ苦しいところじゃなくて、うちに来ない?」

 「ちょっと! 勝手なこと言わないでよ!!」

 「瑠衣はん、それはあかん。自分らがこの子の親から預かっとるんやから」



 瑠衣さんからの思わぬアプローチに、薫くんはいち早く反応した。


 食堂のテーブルで厨房の中の様子を肘ついて静観していた綾芽も口を挟んだ。



 私、モテモテ、ですね。


 ウフフ。



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