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 お店の中は和モダンな雰囲気で、女性客に紛れて男性客もちらほらいる。



「三名様ですね。こちらへ」



 店員さんについて行くと、店内を見下ろせる二階席に案内された。


 なかなかの人気店らしく、お客さんがひっきりなしに出入りしている。



「こちらが当店のメニューになります。ご注文がお決まりでしたら、そちらのベルを鳴らしてお知らせください」



 店員さんは一礼して去って行った。



「どれにします? ほら、パフェもあるで」

「ふぉぉぉぉぉっ!」



 テンションMaxきたーっ!


 イチゴにチョコにラズベリー、バナナに……トロピカルフルーツ、とな?

 


「これーっ!」

「我はこれでよい」

「決まりやな」



 南国フルーツのおいしそうな写真に一目惚れ。

 綾芽はみたらし団子、アノ人は練切ねりきりを選んだ。


 店員さんに言われたとおり、テーブルに置いてあったベルをチリンチリンと鳴らす。

 他のお客さんが鳴らすのを聞いていたけど、どうやら一つ一つベルの音が違うらしい。それで聞き分けているのか、店員さんがすぐにやって来た。



「ご注文はお決まりですか?」

「これとこれとこれを一つずつ」

「かしこまりました。それと、後程、店長よりお客様にご挨拶したいとのことです」



 て、店長さんがっ!? なんで!?

 テンション上がった時の声がうるさかった? ベル鳴らすのがうるさ過ぎた? それで他のお客さんから苦情が来ちゃった?


 店員さんから綾芽の方に視線を移すと、綾芽はにこやかな笑み。

 決して困っていなさそうなところを見ると……大丈夫、なのかなぁ?


 それから十分もかからず、店員さんが注文したものを持ってきてくれた。



「どうぞごゆっくり」



 ニコリと笑ってバックヤードへ戻っていく。


 私は店長さんの挨拶が気になって気になって、店員さんが入っていった暖簾のれんの向こうばかりに目がいってしまう。



「この子が例のおチビちゃん?」

「……っ!」



 び、びっくりしたー!


 急に背後から肩を掴まれ、顔を覗き込まれた。

 緩くウェーブがかかった栗色の髪をポニーテールにしてまとめた、鈴を転がすようような声を持つその人は、匂い立つばかりの美しさを持つ女の人だった。



「お久しぶりです、瑠衣るいさん」

「久しぶり。最近どう? 調子は」

「まぁまぁですわ。それより、ここにも支店を出したなんて聞いてへんのやけど」

「あら? あの生意気な弟弟子には伝えたはずなんだけど。……もしかして、あの子、わざと伝えてないわね?」

「瑠衣さんは相変わらずそうですやん」

「あら。これでも我慢してるほうなのよ?」



 なにを、と言わずとも分かるのか、二人はニコニコと微笑み合っている。

 私とあの人そっちのけで進む会話に、綾芽の服の袖をクイクイと引っ張ることで紹介を求めた。



「ん? あぁ、うちで預かってる子と、その、パパさん」



 パパさん! まだ言うか!

 そしてそこ! うむ、とか頷くんじゃない!



「……みやびでしゅ」


 

 綾芽の思い出し笑いを横腹パンチで止めた後、体を捻ってご挨拶。

 女の人はフフッと笑って空いている席に腰掛けた。



「初めまして。私は薫の姉弟子の瑠衣よ。お姉様と呼んでちょーだいな」

「るいおねーちゃま?」



 首をコテンと傾げると、瑠衣さんは手で口と鼻を押さえた。小声でジャスティスと呟いているのが聞こえてくる。

 何を察知したのか、綾芽が瑠衣さんと私の間に自分の手をすっと挟んできた。



「……その手はなにかしら?」

「いえ。なんも? ただ、ちょーっとおかしな雰囲気ただよわせてはったもんで」

「そう。おかしいわね。……そうだ! 今度夏祭りがあるじゃない? そこでうちも出店を出すように依頼があったんだけど。雅ちゃん。私と一緒にお料理、してみない?」

「う?」



 お料理? お料理かぁ。


 ……おいしいなぁ。このムース。


 目の前にスプーンに乗せられたプルルンと動くマンゴームース。


 反射的に口に入れてしまったけど……ゲゲッ!


 スプーンを持っているのはアノ人だった。


 話に置いてきぼりになって暇だったのか、目の前に置かれていた練切はもう残り少なく、いつの間にかパフェもアノ人の傍に引き寄せられている。


 つまり、パフェは完全にアノ人の手中にあるというわけだ。



「むぅ」

「無理にっていうわけじゃないのよ? 一緒にお料理できたら楽しそうだなぁって思っただけだから」

「むむ。おねーちゃまにいったんじゃないでしゅ。……じぶんでたべれるのっ」



 だから返してちょーだい。私のパフェ。


 両手を突き出し、正当なる返還要求をだした。

 見事奪還し、もう奪われまいとパフェの器をしっかりと握る。



「あの、おりょーり、かんたんなものでしゅか?」

「そうねー。今考えているのは全部練り物系だから、生地伸ばしたり、丸めたりね。どう? やってみる?」

「やりたいです!」



 薫くんから屋敷の厨房は危ないから入っちゃダメって禁止令がでてるけど、家ではお母さんとかおばあちゃんとかの手伝いしてた。だから、そこそこやれますよ。やらないんじゃなくて、やれないだけ。



「そう! なら、明日からそっちに行くわね!」

「あしたからー?」

「えぇ。だって、お祭りは明後日の夜だもの」

「……おぅ」



 そんなすぐだったっけ?

 もしかして、なかなかヤバイ感じですか?


 瑠衣さんはパフェのスプーンを取って、アイスと生クリームをすくい、私の口元に運んできた。


 うまうまです。


 世の中の男性諸君、うらやましかろう。美女のあーんぞ。代わらないけどね!



「あぁ、そうそう。お会計は必要ないわ。私からのサービスよ」

「そら、おおきに」



 い、いいの!?


 伝票をくしゃくしゃっと丸めてポケットに入れた瑠衣さん。


 さっきとは別の、メガネをかけた店員さんがズンズンと怖い顔をしてやって来るのが見え、やっぱりダメだよねぇーと頭を抱えていた時



「店長! また誰にも言わずにホールに出て! 探しましたよ!」

「悪かったわね。もう戻るから」



「……てんちょー?」



 瑠衣さんから餌付けされていたフルーツを口からポトリと落とし、座る瑠衣さんを凝視。



「私、ここの店長なの。ついでに、社長」

「しゃ、しゃっちょさん!?」



 ……はぁ。

 あなたがた姉弟弟子は、そろって見事な肩書きをお持ちだったんですねぇ。


 瑠衣さんは私の口元についた生クリームをぬぐい取り、ペロリとめてニヤリと笑った。



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