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  昨日、夜遅くに雨が降っていたらしい。


 道の至る所に水溜まりができている。



 「……」



 ポン



 「長靴やないんやから、水溜まりに入るのあかんよ?」



 よ、読まれていた、だと?


 こんな姿じゃないと、水溜まりでピチャピチャ泥だらけになっても怒られないなんてことないのに。



 「そ、ソンナコト、シナイヨ?」

 「ならいいんやけど」



 手を伸ばされ、すかさず握られる私の手。


 絶対に信用されてないですな、これは。


 まぁ、正解だけどね!



 それから歩くこと十五分ほど。


 途中で力つきた私は、綾芽に抱っこを所望した。


 楽ちん、楽ちん。イエーイな気分を満喫中です。



 そして今、行きがけに薫くんに頼まれた料理本を買いに、本屋におります。



 「ふぉー」

 「ちょっと待っといてな」

 「あい」



 騒がず、走らずを条件に、下に下ろしてもらった。


 当然だけど、本棚に本がたくさんある。



 それに、今までの目線と違うから、余計に多く感じるんだよねー。


 こんな目線で見るなんて、小さな子供の時以来だし。

 


 ……覚えてないけどね!



 誘拐とか怖いから、あんまり綾芽の目が届かないところには行かないし、行っちゃダメ。


 こんな姿になって、なおかつ誘拐までされましたなんて言ったら、私の事案遭遇率はどうなってんのと問いたくなるもの。


 それに、これ以上綾芽達に面倒はかけられないしね!



 しばらくは黙って本の背表紙を眺めたり、人の往来をぼーっと眺めていた。



 「お待ちどぉさん。ついでになんか買うてあげるわ」

 「えっ、いいの?」

 「えーよ。ほら、絵本ならあっちや」



 ……やっぱり絵本なわけね。


 いいですけどね! 買ってくれるんなら!


 文句は言いません。言いませんとも。



 結局、絵本を五冊買ってもらった。


 オーソドックスに、桃から生まれた少年の話と、竹から生まれた月のお姫様の話。


 それから、竜宮城に行ったお兄さんの話、うさぎとかめが競争する話、ここほれワンワンと犬が大活躍する話。



 夜寝る前に読んでもらうんだー。わーい。(遠い目)



 「可愛いお嬢ちゃんねー。飴、食べる?」



 本屋から出る時、入り口近くの棚を整理していた女の人に声をかけられたのですが。


 ピンクの包紙に包まれた飴を差し出され、思わず綾芽を見上げた。



 「……あやめ」

 「ほら、お礼言わな」



 うん、お礼言うべきだってのは分かってるけどさ。


 知らない人から物もらっても食べちゃダメだって教わってきてるし。


 まぁ、綾芽達の所にお世話になっておいて今更か。



 「おねーちゃ、ありがとぉ」

 「どういたしまして。今も可愛いけど、綺麗なお母さんだから、将来美人さんねぇ。羨ましいわぁ」

 「……」



 お、お母さん…?


 それはもしかして、もしかしなくても綾芽のことですか?



 そろそろと綾芽の方を向いて、サッと視線を背けた。



 笑いながら怒気を発するのはやめて! 怖い!



 おねーさん、地雷踏み抜いてますよー。


 地雷原でタップダンス躍るのダメ、絶対!!



 「あ、あやめー。いこー」

 「そうやね」

 「またどうぞー」



 バイバイと手を振ってくれたお姉さんは、最後まで綾芽を私のお母さんだと思っていたことだろう。



 ふぃーっと安堵の溜息一発。


 大きな仕事、やりきりましたぜ! ボス!



 ボス役には勝手に夏生さんを抜擢ばってきしておいた。


 だって、知っている人の中で一番ボスっぽいんだもの。



 隣から漂う冷気に屋敷に帰り着くまで堪えた私、偉かった!



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