揺れる想い - 第27話
俺だって別に、上月のことは嫌いなわけじゃない。
こいつはうるさいやつだし、性格はひねくれているし、顔を合わせれば喧嘩ばかりしているけど、なんだかんだ言ってもご飯はつくってくれるし、それなりに協力もしてくれる。
見た目だってまあ、静かにしていれば可愛い部類に入るから、家でふたりでいるのはそんなに嫌いじゃないし。というか悪い気はしない。
しかし、付き合うかどうかとなると、やはり違うと思うんだよ。
付き合うということは、つまりデート中に手をつないだり、公園でイチャイチャしたりするんだぞ。
まず上月とデートしているシーンが気持ち悪すぎて想像できないのだが。
俺が上月と手をつないだりするのか? そんなばかな。
大体上月だって、俺みたいな男と付き合いたいだなんて思わないだろうよ。
妹原にしても、山野にしても、間違っているんだよ。きっと。根本的な何かを。
仲がよければカップルになれるなんて、そんな単純な方程式が成り立ってしまったら、世の中はカップルだらけになってしまうんじゃないか。
兄妹で仲がよくても彼氏彼女にはならないだろ? それと同じだよ。
だから俺は、仲がいいから将来にカップルになれるという都市伝説は信仰しない。オカルトを信仰するのはマニアとカルト教団だけで充分だ。
冷たいバニラアイスをスプーンで掬いながら、上月をそっと観察してみる。上月もおとなしく正座してチョコアイスを食べている。
静かにしていれば、悪くはないと思う。上月は顔が小さいし、身体も細いし、けれど目もとはぱっちりと大きくて、頬も少し赤みを帯びているから、客観視して男を充分に刺激する女子だと思う。
こうしてふたりでまったりしていると、今でも少し緊張してくるからな。
でもな、やはり違うと思うんだよ。
「ん、なに?」
「別に」
上月が俺の気配に気づきそうだったので、俺はすぐに視線を逸らした。
* * *
九時になったのでSUNがはじまった。今日で二回目か。
今日の上月だったら多少見ていなくても大目にみてくれるかもしれないが、一応さぼらないで観た方がいいだろう。
テレビの中で主演の……ええと、なんと言ったかな。主人公のなんとかサンが、学校の廊下を異常なハイテンションで走りまわっている。
そしてすかさず教師に見つかって怒られているが、高校生にもなって廊下を走って怒られるというシーンをはさむのはいかがなものだろうか。
妹原との話題づくりのために仕方なく観ているが、このドラマはやはり面白くないな。
そもそもドラマ自体のどの辺が面白いのかわからないから、ドラマ通に解説してほしいのだが。
相手役のいけ好かないイケメン俳優――役の名前は忘れた――が出てきて、主演女優に何やら文句をつけているが、観ているうちに睡魔が俺の身体を蝕んでくる。
仕方ないからインターネットでもしていよう。そう思ってポケットからスマートフォンをとり出すと、
「雫のことはあきらめるの?」
図ったようなタイミングで上月に言われてしまったので、俺は慌ててポケットにしまった。
「いや、あきらめてねえけど。ていうか、まだふられたわけじゃないし」
「そうだよね」
ぼそりとつぶやくと、上月は三角座りしている膝を抱えて顔をうずめる。
上月はテレビの正面にいるので、横にいる俺の姿は顔を向けないと見えない。俺がスマートフォンをとり出したことには気づいていないみたいだから、さっきの言葉に特別な意味はなかったのだろう。
「お前はもう協力しなくてもいいからな。あとは俺と山野でなんとかできるから」
「それは別に、いいけど」
一応気を遣ってみたが、あっさりと流されてしまった。別に構わないけど。
「その、あのね」
「あん?」
「もしも、だよ? もし、雫じゃない子から、好きって言われたら、どうする?」
なぜかはわからないが、上月が不意にそんなことを聞いてきた。
「そんなこと、あるわけねえだろ」
「だからっ、もしもって言ってるでしょ!」
俺が呆れ顔で返答すると、上月が急に声を張り上げて俺をにらむ。あの余裕のない怒り顔で。
なんでそんなこと聞くんだよ。わけがわからねえよ。
「そんなこと言われたって、知らねえよ。告白なんてされたことないし、想像もできねえから」
「そうだけど……」
そうだけど、なんだよ?
もしかして、俺のことを好きな女子がいるというのか? いや、それはないな、絶対に。
下らない妄想はしても意味がないから止めておこう。
「よくわかんねえけど、仮に俺のことを好きだという女子がいたとしても、断るしかないんじゃないのか? その子には悪いけど。妹原一筋と決めてるんだから、浮気するわけにはいかないだろ?」
ものすごく残念だし、もったいないけどな。
至極当然でありきたりな言葉だったが、上月はそれで納得したのか、
「そうだよね」
またテレビの方を向いて顔を埋めた。少ししょんぼりしてるように見えるが、どうなのだろうか。
その後、ドラマの終わりと同時に上月は帰っていったが、ドラマをほとんど観ていなくても何も言われなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます