方法44-1︰いきなり俺の魔導具(効果は事前に確かめましょう)

 翌日、ルシファーは帰って行った。残されたワタシたちはいつもの生活に戻る一方、バビロニア行きの準備を進める。


「ベルトラさん。ワタシたちいない間、ここってどうするんですか?」

「ん? ライネケにどうにかできないか相談するつもりだ。締めてもいいんだが、取引先が困るだろ」

「サロエは?」

「もともとデザインはぜんぶ外に出してたから大丈夫ですよ」

「じゃあ、広報室には話してあるの?」

「いえ、まだです」

「……」

「フィナヤー、というかギアの会のやつらには、まずおまえから話したほうが良くないか?」

「あ、たしかに」


 さすがはベルトラさん。気配りのできる悪魔だ。


「そうだ。私、実家にも言っていいですか?」


『へいへいよー。問題ないんじゃないかしら?』


 ヘゲちゃんが念話で許可してくれる。


「いいよ。リレドさんによろしく伝えておいて」


『ヘゲちゃんの方は?』

『こちらの実務はメガンがいればしばらくは大丈夫。忌々しいことにあなたの安全保障が準備のメインよ』

『嫌味言うならもう少しひねってよ。ちょっとヤル気が感じられないんだけど』

『死ね』

『すがすがしい真っ直ぐな言葉ですね。その気持ちをいつまでも忘れないで』


 そんなわけで、今日もワタシたちは平常運行だ。



 翌日、さっそく就業後にギアの会のみんなに集まってもらい、ワタシはバビロニア行きを伝えた。みんなの反応はわりと冷静で、タニアの襲撃を心配する声はあったけど、ヘゲちゃんやベルトラさんも一緒と知ると、安心したようだった。

 そもそもバビロニア滞在は長くても2ヶ月しないくらいのはずなので、そんな今生の別れみたいなノリじゃない。



 それから部屋に戻ると、ベッドの上に小箱が置いてあった。


「ベルトラさん、これなんですか?」

「部屋に戻ったときからあったぞ。おまえのじゃないのか?」

「あ、私が置きました。開けてみてください」


 開けると中には指輪が入ってた。シルバーの小枝にゴールドのツタが絡まったデザインで、なかなかオシャレだ。ビックリするくらい精緻な細工で、見るからにいいものだって判る。


「今日、暇だったんで半休もらって実家に報告に行ったんです。その帰りに久しぶりで万物市場行ったらそれがあって、ガネ様に似合うだろうなって思ったら買っちゃってました。プレゼントですよー」

「え! ホントに? ありがとう!」


 ワタシはさっそく指にはめようとして、やめた。なんかこの指輪、見覚えがあるような。


「サロエ。そのさり気なく背中に隠してる左手を見せて」

「どうしたんです? 急に」

「どうしてだと思う?」


 サロエはしばらく迷ってから、隠してた手を前に出した。その人差し指にはまってる指輪の一つが、ワタシにくれたのと同じデザインだった。


「あの、そう。実はそうなんですよ。これ、メーカー品でもないのに同じデザインなんです。凄くないですか!?」

「で、妙に安かったんでしょ?」

「だからって呪われてるとは限りませんよ」


 ワタシは小箱をベルトラさんに渡した。ベルトラさんは嫌そうな顔しながらも、指輪をつまんだ。


「触ったとこがピリピリする。呪われてるぞ、これ」

「いや、違うんです! 私いろいろ呪われたアクセ着けちゃってるから、そっちのせいで触っても判らないんです!」

「こんな指輪が爆安な時点で気付こうよ」

「でも、ガネ様にもお揃いのアクセ着けてほしかったんですよぅ。もう少し言うと、本当はもっと前に見つけてて、安月給からお金貯まるまでお店のオジサンに取り置きしてもらってたんです」


 うっ……。そう言われるとあんまり冷たく突き返したりもできない。


「じゃあ、着けないけどこれはもらっておく」

「えー。着けてくださいよ。一つくらい主従でお揃いの何かがあってもいいじゃないですかー。呪われるっていっても、せいぜい外せなくなるくらいなんですから」

「追加効果で不運になるんだよね?」

「そんなの迷信です。私とか平気じゃないですか。だいたいガネ様には妖精女王の祝福だってあるんですし」

「それ効果なくて詐欺事件になったやつじゃん。とにかく、着けないからね。それが嫌なら返す」

「むぅ」


 不満げにむくれるサロエ。そんなお揃いのアクセがいいなら、安物でいいから普通のやつ二つ買えばいいのに。


「じゃあせめて、私のプレゼントしたものを身に着けてくださいよ。ガネ様と個人的なつながりを感じたいんです」

「っていうと?」

「これです!」


 サロエは自分の布団の下から、縦長の小箱を取り出して開けた。中にはダークシルバーのネックレスが入ってた。ペンダントトップは淡いライムグリーンの輝石でできた不思議な紋章。


「これは呪われてません。絶対です。触ったときになんか物足りない感じがしたんで」


 触っても呪われてるか判らないんじゃなかったのか。ワタシは半目でネックレスをベルトラさんに渡す。


「こいつは、呪われてないみたいだな。刺激も来ない。ただこれ、どっかで……」


 ペンダントトップをじっと見つめるベルトラさん。やがて、ゆっくりとサロエに視線を移した。


「なあ、これ。知ってて買ったわけじゃないよな」


 ほら、なんかあるんじゃんか。なんなんサロエ。ワタシをどうしたいの?

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