番外14︰噂の深層
部屋へ戻ると、ワタシはイスに座って久しぶりに暖かい紅茶を飲んでいた。ここ何日もヘゲちゃんの備蓄してた水ばっかり飲んでたから、暖かさが体中に染みわたるようだった。
サロエはもう寝てる。なんでかうなされてるけど。ベルトラさんはベッドの縁に腰掛けてボーッとしてる。
「あー。ウマい……」
「それはいいが、疲れてるだろうから早く寝るんだぞ。明日も普通に仕事だ」
「あ、ワタシ向こうにいるあいだ、わりと普通に寝てたんで大丈夫です。こっちじゃまだ今日のことですけど、ワタシからしたら1週間くらい前のことなんですよね。ベルトラさんは大丈夫なんですか?」
「けっこう怪我したが、カタツムリの爺さんに治してもらったからな。それに、スタミナには自信がある」
あー。見るからにそんな感じですよね。
「そうだ! ヘゲちゃんの隠してた噂話、何だったのか解りましたよ」
ワタシは噂話と、ヘゲちゃんがそれをなぜ、どうやって口止めしてたか語った。
「なんで話が広まるまで放ってたんですかね。知られたくないなら早いうちに、どうにかしてればよかったのに」
「うーん。そうだなぁ…………。ヘゲさん、たぶんそういう意味で誰かと傷つけ合ったこと、ないんじゃないか? 数百年生きてきてそれってのはさすがにカッコつかないだろ」
つまりあれか。能力も地位もあって若いまま何百年だか生きてきて、本人が望んでないのにいまだ処女ってことか。処女厨大勝利じゃん。
じゃなくって、魔界だとそれは流石にヤバいってことなんだろう。人間でもそのスペックでそれだけ生きててヤル気があるのに未経験だったら、なんか地雷臭するもんなあ。
「だから、事実じゃなくてもそういう噂が流れるのはまんざらでもないと思ったんじゃないか」
「けどそれって、ちょっとイタいっていうか見てらんないっていうか……」
「アガネア」
ベルトラさんはそう言うと、苦笑して首を振った。
じつは処女じゃないらしいって噂されてるのを盗聴して、一人ご満悦のヘゲちゃん。うわぁ……。
「もちろんあたしが言ったようなことをハッキリ考えたっていうよりは、漠然と感じてなんとなく放っておいただけだろう。そもそもウチのホストやホステスどもはゴシップ大好きで、いちいち相手してられないしな」
「それでワタシが噂のこと聞きそうになって、なんか気恥ずかしくなったとか」
「だろうな。もし知ったら、そのうちおまえはさっきみたいな質問をあたしにするだろ。で、あたしが今みたいに答えると──」
ベルトラさんはハッとして口を閉じる。ワタシも血の気がザァっと引くのを感じた。
ヘゲちゃんがワタシと喧嘩してまで隠そうとした真実がうっかり今ここに。
ひょっとしてワタシたちは、触れてはならないものに触れちゃったんじゃないだろうか。
ふと気配を感じて目を向けると、サロエのベッド下からヘゲちゃんが貞子そっくりな動きでズルリと這い出てくるところだった。ワタシたちは声にならない悲鳴をあげる。
「ベルトラ。アガネア。何も言い残せないまま、あなたたちはここで死ね」
「まっ、待ってください。あたしの推理が完全に間違ってるって訂正しに来たんですよね?」
ヘゲちゃんはゆらりと立ち上がる。なんか顔赤くして涙目になってる。
「そういう上っ面で取り繕える段階は、もうとっくに過ぎてるわ」
怯えるワタシたち。爆睡するサロエ。
そのあと、説教を飛び越してボコボコにされた。これもう折檻だよ折檻。チョップで瓦みたいに頭蓋骨割られるかと思った。
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