方法33-4:誰を最初にどうにかすればいいのか(報告は早めに)
もうどーしよーもねーので、ワタシはさっきギアの会の部室であったやり取りを報告した。
話が終わるとヘゲちゃんは目をつぶり、疲れたように眉間を揉んだ。
ふにふにふにふに。
「ところでこれ、どう思う?」
なんで強引に話を流した!? ヘゲちゃんに召喚されて現れたのは、一枚の紙。なんか中世の騎士が着てそうな、全身キッチリ覆うタイプの鎧が描かれてる。
「ヨーミギが提案してきた、あなた用の鎧よ。もちろんソウルシーラー製。これを着てればもしあなたが死んでも、魂が外から観測されないって」
「首チョンパされたら断面アウトなんじゃないの? むしろギアの会のみんなにこれ着せたほうが、魂の気配に影響されなくなって良さそう」
「そうよね……」
ヘゲちゃんは紙を投げ出す。
「ヨーミギには塗るタイプのソウルシーラーとか、何か実用的なものができないか相談してみるわ。すぐにどうこうできるものじゃないだろうけど、最悪、来年以降も連載続ければ時間かせぎにはなるんじゃないかしら。読者の反応もいいみたいだし」
マジか。ひょっとして先入観を捨てて最後までちゃんと読めば、ワタシにも何かが見えてるくるんだろうか。花咲き乱れる川の向こうで手を振るご先祖様とか。
不意にヘゲちゃんがワタシをまじまじと見つめてきた。やだ。そんなに見られたら照れちゃう。
「そういえば、会うの久しぶりね。空いた時間はずっとこれの調査をしてたから」
ヘゲちゃんが分厚いファイルを召喚する。中にはあの、さっちゃん山の施設で見つけた魔法陣や札、人形なんかの写真がそれぞれ部屋の見取り図と一緒にしまわれてた。
ヘゲちゃんの話だと、どれも人間の使う魔術と配置や構文が似てるらしい。ただし完全に同じではないし、描かれてる記号や文字は見たこともないものだという。
「あそこで見たときもそこまでは解ったし、意味のない飾りかと思ったのだけど」
ヨーミギの話が本当なら、これもタニアが誰かにやらせてた研究かもしれない。
「たとえばこれ。魔法陣の外周に描く、魔術の継続時間延長の術式」
ヘゲちゃんが写真の一部に触れるとそこが輝き、青い光でできたものが宙に浮きあがった。元の写真より拡大されてる。
「対応してる人間の術式はこれ」
今度は赤い光でできた術式が青い方の隣に表示される。アルファベットじゃないみたいで、こちらも何が書いてあるかワタシには判らない。
両方が重ね合わされる。
「ね?」
「いや、サッパリ解らん」
ヘゲちゃんが指差しながら説明してくれるけど、レントゲン写真を見せて解説する医者を前にした気分。言われてもわかんないけど、理解したフリするみたいな。
「で、ここの冒頭とここの冒頭。人間の方は同じ文字だけど、見つかった方はそれぞれ違う記号でしょ? つまり、既存の文字を独自の記号に一対一で置き換えたものではない可能性があるの」
「そこまで一致しないなら、関係ないんじゃないの」
「術式は厳密なルールがあるから好き勝手に書けるものじゃないし、細部を気にせず全体を見れば人間の魔術で使われる術式に似てるのよ」
「そもそも、なんでヘゲちゃんが調査してるわけ?」
「人間の魔法に詳しいから」
ほほう。意外な趣味をお持ちですな。
ともかく、ヘゲちゃんが顔出さなかった理由は解った。ちょっとスッキリ。
一方のヘゲちゃんはなにやらスッキリしない顔をしてる。
「どうしたの?」
「迷ってることがあったんだけど……。あなた、明日休みよね? これから付き合ってくれない? ベルトラと。行きたいところがあるの」
尋ねるんじゃなかった。いつもならもう寝てる時間だけど、ヘゲちゃんに頼まれて断るなんてことはない。いつもお世話になっております。
ワタシが部屋へ戻ると、ベルトラさんはまだ起きてた。ベッドに寝転がって月刊アシェト様を読んでる。
「どうだった?」
「なんか、付き合ってくださいって」
「は!?」
ガバッと起き上がるベルトラさん。
「これから行きたいとこがあるそうです。ベルトラさんも一緒に」
「ああ、そういうことか」
ベルトラさんはリアクションが明快でいいなあ。
「で、どこ行くんだ」
「さあ? 街から出ないとは思いますけど」
さすがにあんまり遠くならベルトラさんの仕事に間に合わないから、他の日になると思う。
ベルトラさんはしばらく何か言いたそうにしてたけど、やがて諦めてベッドから降りた。
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