方法31-5︰秋の全国仁義なき戦い(傍観してましょう)
説明会で満足しちゃったアシェトにあとを任されたけど、大会については実質もう、やることなんてほとんどないらしい。
あるとしたら問い合わせ対応くらいだけど、それはもともとヘゲちゃんがやることになってたんだとか。
たしかにあれ、ワタシたちにとっては楽な企画である。なんせ“どうやってもいいからフラッグ全部集めたら来て”ってだけだしなぁ。
それにしても、あのタイミングであんなふうにパスしてこなくてもいいじゃん。
ワタシがグチると、ヘゲちゃんが珍しく同意してくれた。
「たしかにあれは、いつもスタッフのやる気を引き出すアシェト様らしくなかったわ」
あのう。アシェトにやる気を引き出されたことなんてないんですけど……。
「たぶん気が晴れたのと久しぶりでベルゼブブ様に会えたのとで、浮かれてたのね。本番直前で体調崩したことも許してもらえたんだし、むしろ良かったんじゃないの?」
甘々で稲妻なことを言いだすヘゲちゃん。
「やっぱあの二人って仲いいの?」
「ルシファー様を加えた三人でずっと魔界を支えてらしたんだもの。気が合うんじゃないかしら。そうじゃなきゃ、アシェト様が我慢して付き合うとも思えないし」
そっか、それって百頭宮ができてヘゲちゃんが生まれるより前のことだから、よく知らないのか。
「……ああ、けどそれはアシュタロト様の話ね。まあ、よく似てるってことだからアシェト様とも気が合うはずよ」
そのアシェトとアシュタロトが別人って設定、やめらんないんだろうか。ちょっと面倒くさい。
翌日ワタシたちはネドヤを後にして、特に問題もなくミュルスへ帰ってきた。
「あー。やっぱ我が家が一番っすねー。こう安心感が違うというか」
自分のベッドに横になる。
「いちおう修繕も進んでるしな」
ベルトラさんはあぐらをかいて床に座る。
「明後日から仮営業開始でしたっけ」
「ああ。場所ずらしながらリニューアルと修繕やりつつって形でな。仙女園も天幕張って仮営業中だ。娯楽都市の二枚看板がそういつまでも休んでるわけにいかないだろ。あと、あたしらは明日から仕事だぞ。ここ出る前に発注した食材の荷受けと明後日の仕込み」
「ですよねー」
あー。社会復帰できる気しないわー。働きたくねー。
と、ベルトラさんが立ち上がった。
「さて、と。じゃ、あたしは行ってくる」
「どこにです?」
「スタッフエリアの見回りに決まってるだろ。一か月近くも空けてたんだ。何もないとは思うが、いちおうな」
そうかこの人、スタッフエリアの警備も任されてるんだっけ。
勤労意欲ありすぎだよ。疲れたし明日にしよって悪魔よりは安心できるけど。
一人になってヒマになったワタシはベルトラさんのおいていった新聞を開いた。今日も争奪大会関連の記事が一面に載ってる。
“狂える魚支部、オークション開催ならず!
大会開始早々に自支部フラッグのオークション販売を告知していた狂える魚支部が昨日、ハーバース東滝口支部の襲撃を受けた。
壊滅こそまぬがれたものの構成員のほとんどが重症。事務所にあった現金500ソウルズとフラッグを奪われる事態に。
これを受け、狂える魚支部長と兄弟分にあたるディクレオス未来創成支部長は報復を宣言しており、両者の激突は必至。
また警察は一連の展開を重く見て、元凶となったアシェト嬢への事情聴取を検討する一方、各支部に対して慎重な行動を呼びかけている”
構成員、兄弟分、報復に警察の事情聴取。ステキなワードが飛び交う。
これ、最終的にダイナマイトを腹巻きにグルリとさして逆恨みで自爆しにくる奴とか出たりすんじゃないの?
そしてアシェトはさりげにこれ、ヤバイことになってないか? ヤダよ職場のトップが警察に引っ張られるとか。
争奪大会に参加したのは約250支部。大手から弱小まで、半数超が参加してるらしい。
といってもヘゲちゃんたちの見立てでは、ワタシを入会させたい支部はほんの数組。他は序列争いのためとか、フラッグを売って儲けようって支部がほとんど。
実際、弱小支部はほとんどが速攻でオークションを開こうとしたり、個別に売ろうとしてるみたい。
それでお金が稼げた支部もあるけど、今日の記事みたいに失敗して脱落する支部もある。
他には自分から力のある支部にフラッグを献上して、守ってもらうと共に今後権益に一枚噛もうとしてる支部なんかもあるらしい。
みんな妙に動きが早いと思ったら、企画内容についてわりと正確な予想情報が支部や記者の間で出回ってたんだとか。
取材やなんかの申込みは殺到してる。けど全部ヘゲちゃんがバッサリ断ってる。
百頭宮に戻ってきたときも報道陣が建物囲んでたけど、アシェトが例の威圧を放ちながらメッチャいい笑顔で“みなさん1列に並んで、お名前と所属を教えてくださいね。絶対に逃しませんから”って言ったら全員逃げ出して誰も来なくなった。
アシェトに対しては“無関係な悪魔を巻き込むようなことを戯れにやらせるなんて許されない”って意見から、“これこそ現代魔界から失われつつある、真の古式伝統を復活させるもの”って意見まで賛否が割れてる。
ただ、ほとんどの悪魔にとっては最高の見世物でしかないみたいで新聞には毎日記事が載ってるし、第二娯楽都市でギャンブル特化のヘリオス=オルガンでは賭けが始まってる。
ワタシにとっていいこともあった。注目度が高まったおかげで前にヘゲちゃんが提案してポシャった、作業服メーカーの専属モデルの話が決まったのだ。
飛行船に届けられたポスターの完成イメージはなぜか油絵だった。いつもの作業服を着てポーズをとる美化されたワタシの姿に、“魔界を騒がす女たちへ。アーマード・ウェア フォーアンサー”とか、どこぞのメカアクションゲームのタイトルみたいなコピーが添えられてた。
今度、メイクもガッツリして新品の作業服着て、カメラマンが撮影してくれることになってる。
モデルなんて実際やるとなると自信ないなぁ、なんて“冗談で”言ったら、撮った写真は匠の手で華麗にリフォームされるらしい。
とにかくこれで、しばらくワタシたちが協会に煩わされることはなくなった、はず。決着つくまで100年くらいかかんないかな……。
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