方法18-3:半分の肉屋(素直になりましょう)

 帰り道。ワタシたちはまた、細く入り組んだ道を歩いていた。


「ムダ足になっちゃいましたね」

「そうか? むしろ初対面にしちゃよく話してくれたと思うが……。

 あいつの話の裏を取るのは難しいことじゃないし、事実なら今度はハーフ・ヨーヴィル右とかいうのを探せばいいんだろ。それがそんなに重要ならな。魂を研究してる人間学者なんて他にもいるんだから、あんまり手間をかけてヨーヴィル右を見つける必要はない気もするが。そこらはヘゲさんやアシェトさんの考えしだいだな」


 なるほど。次のステップには進めるし、面倒なら他をあたってもいいのか。



 両側に高い壁の続く道に出た。

 その半ばまで来たとき、前方に三人の悪魔が行く手を遮るように現れた。悪魔たちはこちらの反応を待つ間もなく駆け寄ってくる。


 逃げようとして振り返ると、後ろからも三人の悪魔。みんなワタシみたいな顔を隠すフードをかぶってる。マズい。なにこれ?


 その時、悪魔たちのさらにその向こう、通りの角を曲がってヘゲちゃんがダッシュで現れた。

 信じられないくらいの速度で直線を加速、悪魔たちを追い越すときに一瞬、変な動きをして減速、ワタシの前で止まると自分の来た方へ振り向いた。走ってきていた悪魔たちが弾け飛ぶ。

 けどヘゲちゃんはそれには構わず、いつの間にか空から接近してきてた悪魔たちに手を突き出す。


 表面を黒点に覆われた紫の光球が悪魔たちを包む。

 ヘゲちゃんが手を握ると悪魔たちはグチャグチャになって圧死した。

 他に増援がいないことを確認すると手を開く。光球の内部が火に包まれ、悪魔たちは灰も残さず燃え尽きる。

 光が消えると、ひとつひとつから輝く網が地面へ落ちた。そういえば、飛んできた悪魔たちが持ってたような。


「あぁクソっ!」


 振り返ると前から来てた悪魔のうち、二人は血まみれで地面に倒れてた。

 残る一人もベルトラさんに羽交い締めにされながら、グッタリしてる。


「せっかく殺さなかったのに、自殺しやがった」


 突然の襲撃はヘゲちゃんとベルトラさんによってあっさり終わった。

 この二人、強すぎ。チートなの? 格ゲーなら運営が叩かれて次期アップデートで大幅にパラメータ調整が入って、運営がさらに叩かれるレベル。


「辻強盗、なわけないわね。アガネアを拉致しようとしてたのかしら。網持ってたし。私の魔法に耐えるくらいだから、あれならどんな化物でも捕まえられるでしょうね」

「見覚えはないな」


 三人の遺体のフードを外して顔を確認したベルトラさんが言う。


「誰がやらせたか知らないけど、フード外したくらいで身元が判るようなヘマはしないでしょう」

「そうだな。しかし捕まったら自殺ってのは」

「拷問を恐れたか、よほど強制力があるのか。いずれにせよなかなか強い悪魔で固めてきたようだから、本気ではあったんでしょうね」


 ヘゲちゃんは腕組みする。


「“半人前ノ”ヨーヴィルは身柄を確保に向かわせたわ。ピーウィーの方はどうも行方不明みたい……ああ、連絡が入った。自宅で殺されてたそうよ」

「自宅で? 妙な話だな」

「普通なら死体を処分して、時間稼ぎをするでしょうね。何かの警告なのか、そう思わせて混乱させたいのか」

「他殺を装った自殺だとか、死体を片付けられなかったって可能性はないな」

「そうね」


 なんか異様に手慣れててカッコいい。あ、そうだ。


「ヘゲさん、ありがとうございました」


 ワタシは頭を下げる。


「別に。仕事だから。ひとまずこのまま三人で百頭宮へ戻りましょう。すぐに仕掛けてくるとは思えないけど、念のため私も残るわ」


 そしてさっさと歩きだす。


 乗ってるところを襲われると厄介なので、馬車は拾わなかった。

 ワタシとヘゲちゃんは終始無言で、間に挟まれたベルトラさんは空気の重さにソワソワしてた。申し訳ないとは思うけど、人が希望どおりに振る舞ってやったのに素っ気ない態度を取ったヘゲちゃんが悪い。



 百頭宮へ戻ると、先に“半人前ノ”ヨーヴィルが連れてこられてた。

 従業員エリアの奥、何もない部屋で椅子に縛り付けられている。


 あれだけのことがあったのに、ベルトラさんは“仕込みがあるからな”とか言いながら厨房へ行ってしまった。

 その顔がホッとして見えたのは気のせいじゃないはず。よっぽど帰り道で気疲れしたんだろうなあ。


 “半人前ノ”ヨーヴィルはかなり怯えていた。

 他に部屋にいるのはワタシとヘゲちゃん、アシェトだけ。

 あれ? というかこれ、拷問混じりの尋問が始まる流れだよね? ヤだなあ、立ち会いたくないなあ。

 グロいのダメだし、この二人がそんな酷いことしてるの見たくないし、自分に関わりのあることで誰かが拷問されてるって状況も精神的に辛い。


 人界なら最悪、ケータイに着信来たふりして部屋を出られるけど、ここじゃそうもいかない。

 どうしてもダメそうなら念話でヘゲちゃんに謝って外へ出よう。

 嫌なものを見てないだけでしかないけど、ワタシに二人を止められるわけないし。

 自白させる魔法なんかがあって、穏便に済めばいいけど。

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