方法16-2:昨日の敵は今日も敵(無駄な抵抗はやめましょう)
「えっとぉ。並列支部の入会特典はお金が借りられる、便宜を図ってもらったり、人を紹介してもらえる、困ったときは相談に乗ってもらえる。このあたりは普通の支部と同じなのね。
他にはネドヤ=オルガンにある本部にいつでも無料で滞在できるとか。
あそこはけっこう人気のリゾート地でしょう? 私もたまに行くんだー。
あとはねぇ。これはアガネアにはあんまり興味ないかもしれないけど、支部の持ってる乙種擬人の無料レンタルとか。これが1番のウリかなぁ」
なにこのふわぁっとした口調。
永井豪デザインみたいな姿とのギャップにクラクラする。
これがシャガリの真の実力とでもいうのか……!
「義務の方は普通だよ。協会の要請にできるだけ応える。
あとアガネアだけの特典があってね。なんと入会費、年会費は永久無料でーす!
ただうちの支部の宣伝に名前とか写真とか使わせてもらうからね。
他にも囲む会とかイベントに参加とかいろいろしてほしいなー、とは思うけど、これは報酬とか条件とか込みで入会してもらってからの相談かなぁ。
あ、もちろん嫌なことは強制しないよ。……そんな感じなんだけど。どう、かな?」
どう、と言われても入会するわけにはいかないんだけど。
あ、キッパリ断って百頭宮が協会と険悪になったらマズイんだっけ。
ワタシとしてはそんなのどうでもいいけど、責任取れとか言われると困るしなぁ。
「うーん。その話をふまえて考えてみる、ってとこかなあ。仕事もあるし、あんまり義務を果たせないかもしれないし。特典も使えるかわからないしね」
お断りを臭わせつつ先送り。
「そっかぁ。ですよね。お仕事忙しそうだし。了解です! せかしてゴメンですけど早めにお返事くださいね。入会するよ、だと嬉しいです。ではシャガリ、これより契約話法に戻ります!」
ビシッと敬礼するシャガリ。意外と素は気さくなんだな。
「契約話法再開したから言うんだが、ここにとってアガネアは大事な戦力だ。それにアシェトさんもいろいろ考えがあるみたいだし、本人の独断ですぐ返事ってわけにはいかないかもしれないぞ」
「アガネアの状況については理解した。情報に感謝する」
「気にすんな。アドバイスついでに言うと、アシェトの許可を先に取ったほうがいいぞ」
「理解した」
シャガリは礼をすると帰っていった。
「ベルトラさん」
「ん?」
「シャガリ、すごいギャップでしたね」
「契約話法じゃなきゃ普通の悪魔だからな。アシェトさんは落とせないだろうから、これでとうぶんは来ないだろ。
それよりアガネア、ジャガイモの皮むき上手くなったな。他の下ごしらえもようやくまともになってきた。これなら第1厨房の見習いと比べても負けないんじゃないか」
「ありがとうございます!」
とうとう褒められた。いやぁ、努力したもん。
ヘゲちゃんとかアシェトの無茶振りに巻き込まれてないときは、起きてるあいだほぼ仕事しかしてないからね。
「ためしにサラダでも作ってみるか」
ワタシは皿にレタスを敷くとさらし玉ねぎを盛って、上から削ったチーズを散らした。仕上げにドレッシングをかける。
「チーズか。なかなかいいアイデアだ」
今日のワタシ絶好調だな。どうしたんだろ。
「じゃあ、それをヘゲさんに持ってってやれ」
見れば食堂の隅でヘゲちゃんが独りで呑んでる。ティルとナウラの姿はない。
「嫌ですよ。ヘゲちゃん酔うと絡んでくるんですから」
「あたしが捕まったほうが影響大きいだろ」
「放っときましょうよ」
「それでこないだ、クソ忙しいときに厨房に乱入してきたろ。いいから行ってこい」
ワタシはしぶしぶサラダを持っていく。
ヘゲちゃんはティルが来てから、光の速さでやさぐれていった。
仕事があるだろうに、ティルがあたりにいないときを見計らっては酒を呑んで鬱々と酔っ払ってる。
「これ。ワタシが作ったんだけど、食べてみて」
ヘゲちゃんはどんよりした目でワタシを見上げる。
「あの女、殺そうと思うの」
まーたーかーよ。最近のヘゲちゃん、いっつもそれな。いっそ決め台詞にでもしたらどうか。
「アシェト様には止められてるけど、部屋の天井が抜けたり、地下フロアが崩落すれば事故だと思うの」
「ダンタリオンはヘゲちゃんのこと知ってるから、真っ先に疑われるでしょ」
この話するのももう何度目だろ。ひょっとしてワタシ、タイムリープしてるんじゃね?
「だいたいあの女は私と名前が被ってる。まともな神経の持ち主なら申し訳なくて改名するところでしょう」
ティルとティルティアオラノーレ。被ってるけど改名はしないでしょ。呼び名は違ってるし。
あと、それならヘゲちゃんが改名してもいいんじゃなかろうか。
「それに、あの女は暇さえあればアシェト様の周りをウロチョロして貴重な時間を奪って。おまけにチラチラこっちを見る目! そのままえぐり取ってやるのを耐えるのがどれだけ大変か解る? とにかく、アシェト様の優しさにつけ込むなんて許されない。本当ならあなたの正体を暴くのが仕事でしょう?」
「いや、それちょっとかなり違う」
ワタシが悪魔だって証明するのがティルの仕事のはず。ロクにやってないけど。
「あなたもあなたで、ティルをしっかり引きつけておかなきゃ。一人で難しいんなら、ティルが目を離せないような状況にしてあげようかしら?」
以下、延々と愚痴が続く。内容は毎回ほぼ同じ。しかもループする。
ワタシは客が来だしたのを理由に逃げ出した。ダメだあれ。早くなんとかしないと。
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