方法15-2:みんな知ってるダンタリオン(知識は応用しましょう)

 マジか。まさかあの設定集のトンデモが役立つときがくるとは。

 っていうかワタシ、なんだかだ言いながらあの本けっこう読んでるな。


 えっとあれは確か……Now Loading……………◎。


『へいへいよー』

『どうしたの? 早くなにか言って上手いこと丸め込んでちょうだい』

『それなんだけどさ。ヘゲちゃんの設定集に“アガネア誕生の秘密”ってあったでしょ? あれ使えないかと思って』

『?』


 憶えてない、のか。ウソでしょ!? ワタシはアガネア誕生の秘密に書いてあったことを教える。


『そういえば、そんなことを書いた気もするわね。けれど私は常に前を見て進み続ける女。完成した作品は過去。過去は振り返らないの』


 生まれてから何百年だか何千年だか百頭宮の中で停滞してた女が言うセリフじゃない。


『そんなことより、どう思う?』

『説得力はあるし、とりあえず言ってみてもいいんじゃないの? こんな時のために作っておいた設定だと思うし。たぶん』


 なぜいまこのタイミングで他人事ぶったの!?


 とはいえ、これで方針は決まった。

 けどなあ、あれ言うのか。とても正気じゃ口にしたくないけど他に案もない。

 ワタシは大きく息を吐くと気持ちを切り替える。少し悲しそうな、憂いを秘めた表情を作る。


「どうしたんだい? ここへ来るとき鼻の中に虫でも入って我慢してるとか」

「ちがくて! じゃなかった。そこまで言うならお話しましょう。

 じつはワタシは、サタン様が裏切り者や邪魔者を粛清したり暗殺するために造ったんです。

 だからその存在は極秘。もっとも、完成が遅れて間に合いませんでしたが……。

 あなたの本に載ってないのはそういう理由です」


 悪魔大鑑とやらがどういう仕組みかは知らんがな。


「なるほど。サタン様ならそれくらいのことはやりかねない。それに間に合わなかったっていう残念なところもあのお方らしい。サタン様ならしかたない、って格言もあるしね」


 あ、信じた。いったいサタンってどんな悪魔なんだろう。

 ワタシの中ではすでに、天然ドジっ娘お姉さんキャラ(意外と黒い)でイメージ固まりつつあるんだけど。


「けれど困ったな。君の話はなにか裏付けられるようなものじゃないだろ。このままだと自称ってことにしかならない」

「なにか問題があるんですか?」

「単純に君の話だけでそれを事実とするのは学術的じゃないんだ」

「学術的?」

「つまり、仮説に対して充分に信頼できる立証がなされてない。だから僕としては慎重な扱いをするしかない」


 おーう。別の意味で面倒なやつだなあ。


「ただ、君の話は仮説として検証に値する。サタン様に直接尋ねることはできないから、何か他の方法を考えよう」


 ワタシは緊張が緩みそうになった。とりあえずこれでしばらくは大丈夫。その後のことはそのとき考えよう。


「さて、アシェト君。それで相談なんだけど、ティル君をしばらくここに滞在させてもらえないかな。アガネア君と共に暮らせば、何か彼女を悪魔だと証明する方法が見えるかもしれない」


 ティルが一瞬、“なんすかそれ。聞いてないんですけど”みたいな顔したのをワタシは見逃さなかった。

 たまによく似たような目に遭わされてるから判る。もしかしたら仲良くなれるかも。


「カネ払うんなら好きにしろよ」

「もちろん。とはいえ遊びに来た客じゃないんだから部屋は従業員用のでいいし、料金も手加減してくれると助かる」

「わかった。で、どんぐらい居るんだ?」


 本人置いてけぼりで勝手に決まってくとこも似てる。親近感湧くなぁ。


「来月の終わりまで。百頭宮と仙女園の共催イベント“大娯楽祭”に中央から今年は僕が招待されててね。それが終わったら連れて帰るよ」


 ほほう。そんなイベントが。百頭宮と仙女園って仲悪いんじゃなかったのか。


「そうそう。アガネア君、今年は君がスペシャルゲストなんだろ。楽しみにしてるよ」


 今度はワタシが“なんすかそれ。聞いてないんですけど”って顔をする番だった。



 ダンタリオンが帰り、部屋にはワタシたち四人が残った。

 さてじゃあ帰りますか、ベルトラさん待ってるだろうし、と立ち上がろうとしたら──。


「お久しぶりです! お姐さま!」


 それまでおとなしくしてたティルがキャラ崩壊を起こしてアシェトに抱きついた。


 お、おねーさま!?


「あれ、妹なの?」


 隣のヘゲちゃんに尋ねる。


「もちろん違うわ。あれは魔界に3万24人いるというアバズレビッチどもの群れ、“アシェト様のスイートですごいシスターズ”、略してアシェススシターの一人よ」


 アバズレビッチって意味的に同じじゃない?


「あしぇ、す、しす……噛んだの?」

「噛んでない。アシェススシター。あなたのギアの会みたいなもの」

「それも妹番号8番。創設メンバーの一人なんです」


 アシェトの首にゆるく腕を絡めたまま、ティルが言う。妹番号て。昔のアイドルみたいだな。


「アシェト様の妹を自称し、迷惑を掛けているメスどもよ」


 メス言うな。


「さっき、突然ダンタリオン様にキレたお姐さま、カッコ良かったです」


 熱っぽい瞳で見上げる。


「お、そうか?」


 まんざらでもなさそうなアシェト。


 ヘゲちゃんが限界までがまんしてる影響か、部屋の天井がミシミシいってる。

 天井抜いてティルをグチャっとする想像でもしてるんだろうか。それで本当に困ったことになるの、ワタシだけだからね。


「一ヶ月もお姐さまのそばで暮らせるなんて、幸せです」

「アガネアのそばだろ」

「同じようなものですよ」


 コイツ仕事する気あんのか? 見ればヘゲちゃんは思いっきり引きつった顔をしてる。

 無事に迎えの日まで過ごせるといいんだけど。ティルもワタシも。

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