第3話 強くあらねば


 陽光のように温かな気配が近づいていた。これほど温かく、強い光を放つ気配は、彼女だけだと知ったのは、盲目になったが故だ。


 訓練場に集った数十人の騎士たちが道を開け、その間を割るように、温かな気配は近づいてきた。


「シホ様」

「まだあまり無理はしない方が……」


 と、弱々しい声で言いかけたが、そこでシホが息を呑む気配が伝わった。シホ本来の柔らかな気配が遠ざかり、代わりに硬質な声が発せられた。


「もう動いてもいいのですか?」

「ええ。一から覚えなければならないことが、いまのわたしには、たくさんありますので」

「そうですか」


 言葉だけが冷淡に、クラウスの表面を撫でていく。しかし、シホの気配は温かで、それは心底、心配をしているのだが、周囲の騎士たちの都合上、無理をしてでも硬質に振る舞っている、強く見せようとしていることが如実に分かった。強くあらねばならない、と感じたのは、自分だけではないのだろう。こうした振る舞いが出来るようになったことも、シホの決意の現れなのかもしれない。


「では、クラウス。ひとつ頼まれてもらえませんか」


 シホが神殿騎士団詰所であるこの館を訪れることは、これまでなかった。おそらくは相当に、急ぎ伝えたいことがあったのだろうとクラウスが思案していると、シホが続く言葉を紡いだ。


「百魔剣のことです」

「……何なりと」


 クラウスはその場で片膝をついて頭を垂れた。

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