突然に異世界に放り出された天ヶ瀬アマタは、偶然手に入れた
日本刀で戦うことになる。
しかも、その異世界、どうやらお江戸だったらしい。ただし、ちょっといい加──あ、いや、自由度の高いお江戸だ。エルフがいたり、妖精がいたり、でも悪代官や新撰組もいる。
とにかく、全編和風というだけで、めちゃくちゃ楽しい。冒頭の斬り合いの最中にアマタがちゃんと鞘を手に持っているという描写だけでも、作者がきっちり考証している証左だし、だがそこで歴史知識を鼻にかけるでもなく、あっさりぶち壊してケレン味を出してくるあたりは、ガチのエンターテイメントを感じる。ガン=カタとか、ツボだ。アマタの和装もおしゃれだし。
とにかく、他の作品なんかで、安直に主人公の女子に日本刀持たせて、和服着せてる似非和物とは、本作は一味ちがう。日本刀は名古屋帯とか半幅帯とかには差せねえから。
本作にすっかり影響されちゃったんで、今度ぼくも和物の小説、なにか書きます。
10年以上も昔、こんなセリフがあった。
殺人者には救いがなく
殺人鬼は救いようがない
これは、一つの真理だろうと私は思っている。
今作の主人公、アマタは、そのどちらかである。
どちらであったとしても、救いはない。
彼自身に救いは、永劫に渡ってないのかもしれないが──しかし、彼自身が誰かを救うことはできる。
異世界時代劇という形で描かれる、モノを殺すという事。
第一部完結した今こそ、皆さん読んでみてはいかがでしょう。
胸がすき、笑顔になって、ほんの少しさびしいような……そんな物語が、ここにはあります!
時代劇の最前線がここにある!
時代劇の魅力の1つ――勧善懲悪。
心正しい者の刃にかかり、
悪が滅びる様を見るのは
最高にスカッ! とします。
とはいえ。
現代の倫理感では「悪人なら殺していい」とはいきません。
現代人の私たちが勧善懲悪の物語を見て楽しめるのは、
自分が当事者ではない気楽さ故でもありましょう。
それがもし、当事者になってしまったら?
主人公の天ヶ瀬アマタは私たちと同じ現代人。
彼は江戸時代の日本によく似た異世界に転移し、
そこで時代劇さながらに剣を振るいます。
斬るのは悪のみと己を律しながら、
悪であれば容赦なく斬るアマタ。
その姿は時代劇の主人公として
我々をスカッとさせてくれます。
一方で、
現代人の倫理観を持つがゆえに、相手が悪とはいえ
人を殺せてしまう自分に恐怖し葛藤する姿には
同じ現代人として共感できます。
元から時代劇の世界で生まれた主人公ならば
このように感情移入することは難しいでしょう。
時代劇のヒーロー。
等身大の現代人。
本来は両立しえない2つの魅力が
異世界転移の設定によって
見事に融合しています。
――長々と語りましたが、
これでもまだ本作の魅力のほんの一部、
あとはぜひその目でお確かめください。
最高のエンターテインメントがここにあります。