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切り花に毒のないことは実証済みだが、ペインの価値は下落した。どのみち毒花だと知れては取引を続けるわけにもいかず、村人たちは仕事を失い、集落では暮らしてゆけなくなった。近隣、あるいは親戚の住む市町村へ次々と住まいを移し、村は数か月で廃村と化した。その変化は驚くほど早く、徹底的で激烈なものだった。
彼が数か月を暮らした、森の奥の集落は崩壊した。
診療所の荷物を整理するため阿香に戻ったとき、すでにほとんどの住民は移転済みだったらしく、杉本は村人の顔をいっさい見ることがなかった。元々ほかの家とは離れていたから、住民と接する機会はそれほど多くなかった。実感したのは、からっぽの診療所の中で、ここに毎日集まってきていた若者たちの姿をふと思い出したときだった。
彼は言いようのない虚無感に襲われた。
「本当によかったのか、考えてしまうことがあります。僕らは……僕は、彼らの生活を根底から覆してしまいました」
数か月の間、誰にも言えなかった想いが、芝を目の前にして自然と零れてしまう。
「村の人たちを助けるつもりで、逆に追いつめてしまったのではないかと」
「自分を責めてはいけないよ。杉本くんのせいではない」
芝が優しく声をかけた。
「あれを栽培するのは、よくないことだった。ひっそりと咲いているものを摘む分には許されるだろうが、人工的に増やせば場が
頭を垂れて、芝は続けた。
「もとより村の問題だった。私が決断を遅らせたのがいけない。もっと早くあれの罪を告発していれば、回避できた悲劇もあったろうね。後悔しているよ」
それを聞き、歳若く幸せそうだった男女ふたりの姿と、燃えた温室の様相が杉本の脳裏をかすめた。
あれから四か月、宣子の遺体は未だ発見されていない。
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