魔獣騒乱15
前々から思ってはいたのです。
噂の魔法少女、どう考えてもニコラ達と同世代と思われるので、魔法学校の生徒なんじゃないのかと。
しかし、魔法学校の友人に聞いてみても
「いや~…今、うちの学校でそんなバカな事する人いないんじゃないかな?」
「うーん…多分隠れシバースの人とかじゃないかと思うな?」
いつもこんな感じ。
なんとなくはぐらかされてる気がしますし、『今』って事は昔ならそんなバカな事する人いたのかな?って思わなくもない。
でもこれ、魔法少女に興味津々のニコラちゃんみたいな子が珍しいのであって、他の人達はあんまり興味が無いみたい。
いや…興味が無いというより
「ほんと…ああいうの迷惑なんだよね…」
みたいな感じで、件の魔法少女はシバース…少なくても魔法学校の生徒には評判が悪いみたい。
この辺り、最近までシバースではなかったニコラちゃんとは根本的に価値観が違うのかも。
もっともニコラちゃんが魔法少女に興味津々なのには、別の理由もありまして
「ねえ?その恰好ってエリエル・シバースっすよね?」
「え?あ、はい…知ってるんですか?」
「もっちろーん!私、憧れてたっすから!」
という事でニコラ・テッサもまた、幼少期にエリエルの絵本を読みあさった口。
この世代ならそういう子供は多かったはずなのだけれど、不思議とエリエルちゃんは出会った事が…ああ…不思議じゃなかった。
エリエルちゃん学校ではボッチですから、そもそも友人がいません。
なので、そういう話をする機会も今まで全く無かったですから
「本当ですか!」
大喜びで前へ飛ぶ事を忘れてしまう。
「子供の頃は何にも分からなかったからさ…絵本を読んで、『私も空を飛びたいな、シバースになりたいな』なんて思ったものっすよ」
この時はエリエルちゃん『うれしい!仲間だ~』なんて事を思ってるんですけど
「でもっすね?いろいろとシバースの現実が見えてきて『ああ私シバースじゃなくてよかったかも』なんて思い始めた14歳の今になって、突然『あなたはシバースの能力に目覚めました』…なんて言われても困っちゃうっすよね~?」
言ってる事がだんだん愚痴めいてきたので、どんな顔していいのか分からなくなる。
そんな事言われても、こっちが困っちゃうっすよ。
ただ、これは本音を言ってるのは間違いないニコラちゃんなのですけれど、言いながらエリエルちゃんの様子を窺ってます。
14歳でのシバース覚醒という超レアケース。普通ならそこで驚く所ですけど、エリエルちゃんは特に驚く様子無し。
つまり、最初からニコラちゃんの事情を知ってたって事になる…のか?…いや、そうか?…ま、いっか?
ニコラの名前を呼んだ時点で、知人である事は間違いないだろうけれども、念のための再確認。
エリエルは魔法学校の生徒という事で、ほぼ間違いなし。
こうなると、もうその正体を特定したくなるっていうのは…あんまり良い事だとは思いませんけど人の業。
先ずは消去法。
比較的仲の良い友達なら、すぐに分かるだろうという事で外していく。
続いて見た目から。
身長はおよそ164㎝。痩せ型で極めて貧乳…素晴らしい…いや、そうじゃなくてですね…
そこから何人かに絞り込んでいきますけれど、パッと見で彼女の正体を分からなくしてるのは何よりもその髪型…銀髪ふわふわヘア。
それでニコラちゃん、前に髪型について友達と話をした時の事を思い出すのです。
それはクラスの女子のリーダー格の子の髪の毛が、あまりにも真っ直ぐ綺麗な髪だったので
「髪…綺麗っすね~」
ストレートに褒めた所
「ああ…これ魔法でやってるの。本当は私、けっこう癖毛酷いんだよね…」
驚きの告白。
何しろ魔法の使用は法律で禁止されてる訳でして、そんな事して大丈夫なのかと心配になるのです。
「本当は駄目なんだろうけどね?まあ髪型くらいじゃ別に何にも言われないし…」
髪型なら、魔法を使わなくったって変化させる事は可能な訳で、その変化が魔法によるものかどうかなんてのは、流石にいちいち確認されないとの事。
それもあって、なんて言うか…シバースに厳しい社会へのせめてもの抵抗?みたいな感じで多くのシバースが、その髪を魔法を使って変化させてるそうです。
さてこの話、重要なのはそこではなく、その会話の後に続いた
「でも、ピンクは無いわ…」
「あーピンクは無いね?」
「なんでピンクなのかな?」
明らかに1人の人物を指してのバッシング。
クラスで一番大人しい…誰とも話をせず、教室の隅でいつも一人でいるような、普通なら目立たないタイプの女の子。
けれど、その髪の色だけが強烈に自己主張をし、違和感を出している。
その髪のピンク色を思い出して
「ピンクか…」
思わず声に出てしまい
「え?」
「あ、いや!何でもないっす!」
誤魔化しながらも脳内でモンタージュ。
エリエルの髪型をピンク色のストレートにして、さらにあの子がいつもかけている、おそらくは伊達だろうメガネをかけさせてみる…
『ビンゴ…』
今度は声に出さないで済みましたけれど、これはあくまでニコラちゃんの脳内モンタージュによるもの。
御都合主義補正がかかってるとみられますので、おおよそ正確とは思えない代物ではあるのですけど、本人はもう、これで間違いなしと思い込んでるので仕方がない。
つまるところ魔法少女エリエル・シバースの正体は、魔法学校のクラスメイト、ユーリカ・マディンであると…
いや…まあ正解なんですけどね…
ともあれ、ここまで来たらニコラちゃん、本人に正解を確認したい所なんですけど、流石に『あなたはユーリカ・マディンさんですか?』と聞いても『はい、そうです』となるとは思えない。
思えないけれど、ここまでのニコラの思考はコンマ何秒の世界。ここで長考するのは会話の流れを不自然に断ち切る事になり、それはニコラちゃんの信条と相反するものですから、ここは思い切って
「ユーリカさんは、いつから空を飛べるようになったんすか?」
聞いてしまう。
普通に考えたら失敗ですよ。
まあ動揺したりはするかもしれませんが、それだけでは決定的な証拠とは言えない。
『私はユーリカって人じゃありませんよ!』って言われてしまえばお終いなのです。
そんな訳でニコラちゃん、やらかしたーって後悔してるのですけれど
「私は、その辺あんまり覚えてないんですよね?物心付いた頃には飛べてたというか…」
そのまま普通に会話が続いたから
「へ?」
間抜けな声を出してしまいますが
「?…どうしたんですか?」
当人、自分がやらかしたことに気付いてない。
「あの…ユーリカさん?」
「はい…」
まだ気付かない…
「ユーリカ・マディンさん!」
「はい!…はい!?え?」
ようやく気付いたー!
「ななななな何を言ってるんですか!?私はユーリカではなくて!」
慌てふためくエリエルちゃん。それまでお姫様抱っこ状態でニコラちゃんを支えてた手を、思わず放してしまうから
「ちょっ!何して…やだ!」
ニコラちゃん落ちそうになりますれど、間一髪でエリエルちゃんの衣装の一部をつまむ事ができて、事なきを得る。
どうやらエリエルちゃんが飛んでる時は、その一部に触れてさえいれば自分も浮かぶ事ができるようだって事は分かりましたけれども、それはそれとして
「し…死ぬかと思った…」
うん…落ちれば確実に死ねる高さでした。
そうすればエリエルちゃんも、彼女の口を永遠に封じる事ができたのですけれど、そんな風に考えるような子ではありませんから
「ごめんなさい…」
先ずは手を離した事を謝ってから
「あの…この事は…」
と続けます。
これはもう、自分がユーリカ・マディンであると認めてしまったようなもの。
まだ、誤魔化しようがあったと思うので、内心で『チョロいな~』と思うニコラちゃん。
「うん、もっちろん!噂の魔法少女の正体がユーリカ・マディンさんだなんて、誰にも言わないっすよ!」
追い打ちをかけるのだけれども、それが追い打ちだとも気付かないエリエルちゃんは
「ありがとうございます…ほんとお願いします…」
なんて言い出す始末ですから、ニコラちゃんは『大丈夫か?この子』と、かえってエリエルちゃんの事が心配になってくる始末。
何はともあれ、後に『心の友』と書いて『心友』となる二人。
先ずはニコラがエリエル=ユーリカの弱みを握った…それとほぼ同時。
エリエルたちが飛んできたその方角に閃光が走る。
「何アレ?」
驚くニコラに
「攻撃の合図です…急いでここを離れましょう」
先ほどまでの動揺が嘘のように、冷静に答えるエリエル。
かくして近衛騎士スカーレット・イヅチより待機中の近衛シバースへ、魔獣攻撃のGOサインが下りるのでした。
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