第17話:ありきたりなSFのプロローグ

「株式会社アラートゲームズからの最新作『LOST PLANET』の選考プロモーションを始めます。鴨池CEOよろしくお願いします」


 開場の観客全員がステージに焦点を絞っていく。やがてステージ脇をスポットライトが照らし、光を浴びた人物はインカムに一度手を添え、軽く手を振りながら現れた。鴨池の登場に会場全体は湧きあがって、鳴りやまない拍手が響いた。


「今日はお越しいただき……なんて挨拶は野暮ですね。早速我が社が力を注ぎ込んだこの『LOST PLANET』を理解していただくためのプロモーションビデオをご覧ください」

 レッドカーペットの上に立つ鴨池が後ろを振り返り、勢いよく手をスクリーンへ振ると照明が暗転し、やがて観客を飲み込むような音響が開場を震わせ、会社のロゴが映るとまた拍手が鳴り、観客席後波打つ。

 そして映像が始まった。


 VRデバイスを用いたアクションシューティングゲーム「LOST PLANET」

 これはただのVRゲームではなく、同社が開発したダイブスーツを着ることで微弱な痛覚、または温度を体感することができるようになり、さらにトレッドミルをモデルとしたウォーカーデバイスを用いることによって実際に歩いたり、走ったりしながらゲーム内を探索、冒険できるようになっている所謂、ダイブ型のゲームである。

 発売日決定予告とともにこれまでとは一線を画した仕様が明かされると、たちまち世間は飛びつき、直ぐに今年度の期待をこのゲームがすべて背負うこととなった。


「いかがでしたでしょうか。きっと皆さん、わが社の開発したデバイスでこの世界に入り込んでみたくなったことでしょう。では事前に募ったテスターに見事合格した50名の方に実際にプレイしてもらいます」


 PVが終わり、熱狂が覚めない会場の中、鴨池は淡々と次のプロモーションに移る。

 そしてテスターたちが入場して鴨池はLOST PLANETを起動した。大画面のスクリーンにはテスターの覗いている視界が映し出され、宇宙をまたにかけたお家戦争の映画風にナレーションがスクリーンに流れ出す。昔からSF映画大好きだった鴨池らしいなと観客から笑いが起きる。



 舞台は未来。

 人工知能の開発に邁進した日本国はやがて感情を持ち合わせるアンドロイドを開発した。そのアンドロイドたちはハウスメイドの役割を担ったり、各種公共機関に配備され、更にはアンドロイドだけで統括された全自動治安維持組織すら発足された。

 やがてこの時代においてアンドロイドというものは生活、国の治安維持に深くかかわることとなり、誰もが1台持つほど欠かせない存在となった。

 だがある日、アンドロイドはこの世界に対し反乱を起こす。


 どこかの映画で見たことのあるようなありきたりな設定ではあるが、それらはすべて鴨池たちが開発したデバイスによる没入感によって取り払われ、人々を熱狂と興奮の渦に取り込んでいった。



 テストが始まると普段見せる明るい表情は急に失せ、鴨池はインカムを使い誰かと連絡をとっていた。

「チュートリアルが終わったところだが。状況を伝えてくれ」


『どうでしょう……スコア自体は悪くないのですが、どの方もダメージが大きい』


「なるほど、厳しいな」


『ええ……』


「やはりβテストでは難しいか。一応身体能力、精神力は測って選出したんだがな。くそ……時間がないというのに」


『いち早くリリースするしかないですね。場合によってはネット上でデータを無料提供という手もありますが……』


「ダメだ。それではプレイ人数の年齢層がまばらになるだけでなく、母集団自体が多すぎて、絞り切るまでに時間がかかる」


『そうですよね……』

 スイッチを切りかえ鴨池はプレゼンターであり、エンターテイナーに戻りスポットライトを浴びる。


「とにかく今日のオペレーションは終了だ。ラボに帰り次第、今日のデータを見せてくれ」


『はい』

 回線はそこで終わり、テスト時間が終了したようでスクリーンに投射された映像は再び会社のロゴマークに切り替わった。



「いかがでしたでしょうか。私共もプレイヤーの方にこの世界を体験してもらいたくて、うずうずしております。リリースはもう明日になりました。皆さんぜひ、この『LOST PLANET』を冒険し、救世主となっていただきたいです」


 鳴りやまぬ拍手とともに歓声が上がり、やがて熱狂が会場を満たす。登場時同様、鴨池は観客に軽く手を振りながらステージ脇へと消えていった。



「『LOST PLANET』を冒険し、救世主となっていただきたいです」



 それは鴨池をはじめとするラボのメンバー全員の切願であった。


 彼らは未来の世界からタイムトラベルして過去へやってきた警鐘を鳴らす者たち。そして「LOST PLANET」は救世主を選考するための方法である。


 そう遠くない未来、人類は絶滅の危機にさらされる。


 それを知っているのは現時点では、彼らだけであった。

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