第4話
「ミサちゃん、すごーくミカちゃんのことが好きでしょ。」
同性愛者のことは、既に周知の事実だったが、面と向かって…しかも二人きりの時に言われるのは始めてて…何も答えられなかった。
「何もかもいらない。
何もかも捨てていい。この人のためなら死ねる。
そして、その人の言動に振り回されて、苦しくて……。」
修子さんは無表情で台詞のように言った。
「でもね、そう思っているうちは、見返りを期待しているんだと思うの。自分では、期待していない、無償の愛だって思ってるんだけど、無意識のうちに期待をしている。電話を待ったり、会いにきてくれたり……そんなことを期待している自分がいる。
誰にもわかってもらえなかった自分を受け入れてくれる、そう信じたくて……そうじゃないと、不安になる。
嫌われてるんじゃないか、重荷になってるんじゃないのか、私なんていなければいいんだ、って。そして、人は破滅を…死を選ぶの。」
そう言って、いつも長袖で隠れていた白くて細い腕についた傷を見せて哀しく笑った。
「ミカちゃんは、あなたを……あなたが思っている以上に愛しているのだと思うの。あなたが、そこに存在する、ということで十分なのよ。」
「私がここが静かなところって言ったのは、ここにいる3人が、たくさんの傷を持ってるのを感じたから。傷だらけなのに、それをちゃんと自分のものにしようとしていることがわかったから。」
「ミチさんは、残りの人生で……このお家を大事にすることで、お子さんやお孫さんたちに大事なことを伝えようとしている。
ミカちゃんは、ミサちゃんのことを愛してる。だからこそ、自分を大事にして欲しいって願ってる。
そして、ミサちゃんは、そんな想いをわかっていながらも、もがき苦しんでいる。」
「だから、この3人と生きたくなったの。私も、この中で、一人の人生を歩もうって。」
そう言い終わると、すっとそばに来て抱き締めてくれた。
赤ちゃんみたいに泣いた。
泪も鼻水もよだれも流して、大声を張り上げて泣いた。
このまんま、脱水症状になるんじゃないかっていうくらい泣いて泣いて……気づいたら、部屋の中は真っ暗だった。
ミチさんも、そして、ミカも気づいていないわけはないのに、何にも言わず、いつもの笑顔で食卓テーブルに座っていた。大きなオムライスにケチャップでスマイルマークを描いて待っていてくれた。
食べようとすると、ミカがケチャップを持って、スマイルマークの横に、ハートを描いてくれた。
きっと、あの日のオムライスの味は忘れない。
いや……忘れなきゃいけないのかもしれない。
終わりであって、始まりの晩ごはん。
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