第3話

「修さん、お客さん連れてくるって?」

「ペンキ塗りは?」

「入居希望者なの?」

「ミチさん、ハーブティーは?」


それは、私たちがここに住み始めてから半年ほどたった寒い冬の日のことだった。


3人でバタバタしてるところに、その人はやってきた。


そして、バタバタしている私たちを見て、修さんに何かを耳打ちした。

ビックリして動けなくなっている修さんをその場に置いて、彼女は、私たちの前にやって来た。

「はじめまして。大矢シュウコと言います。」

「え?大矢?シュウ?」

「奥様ですか?」

「いえ、不動産屋さんとその客です。でも、ほぼ同姓同名でしょ?」

と笑うと「どんなお部屋でもいいんですけど、ここに住まわせていただけませんか?」と3人の顔を見て言った。


ミチさんは「あなたが入ってきたときにね、どうか、お名前にミがついてるといいなって思ってたの。」と私たちにしかわからないことを言って笑った。


修さんは、ボーッとしたまんまだったけど、みんなに呼ばれて、我にかえると、ハーブティーを一気に飲み干した。

そして、第一声

「ここ、うるさいですよ?」


すると、シュウコさんは「こんなに静かに暮らせそうなところはありません。」と微笑んだ。



シュウコさんの部屋を決めたり、みんなで、カーテンや壁紙を選んだり、ペンキを塗った。

寒いけど窓を開けながら作業をして……まるで学校祭の準備のようだった。


小さな欠片を集めるように、お互いのことを感じ合い、好きになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る