第2話
「あの………」小さな、でも揺らがない声で話しかけられた。
「部屋を探してるんです。」
そりゃわかるよ。だって、ここ不動産屋だし。
若く見えるけど、40台半ば……もう少しいってるかな?
さっき、見てたパンフレットから見ると…夫婦二人か?いや、離婚して一人か?
女性一人暮らしかぁー。
あとは、仕事次第かなぁ。
「あの、お忙しければ出直しますけど。」
また、やった……。
つい、どんな人か、どんな部屋か…第一印象からヒントを得ようとしてしまう。
「あ、すみません。
こちらへどうぞ。」
カウンターでアンケートを書いてもらう。
大矢修子
46歳 独身
部屋の広さ、家賃は問わず。
「静かに暮らせること」
条件はこれだけ。
大矢?修子?ノブコかなぁ。
「あのお名前………」
「あ、ごめんなさい、フリガナ書いてませんでしたね。」
繊細に書かれた文字はシュウコだった。
名刺を渡すと「オサムさん?」「シュウです。」
「あらっ。これ、ほぼ同姓同名ですね。」
「ですね。」
そこから、彼女の部屋探しが始まった。
とにかく閑静な住宅街をまわった。鎌倉の古民家まで行った。
「じゃあ、ここにしようかな。」という物件もあったが、彼女の表情を見て、俺が納得いかなかった。
彼女の「静か」を知りたかった。これは、物理的な問題ではないということは、わかった。でも、何をもって静かと言えるのか……。
昼過ぎまで物件を見た。
今日は、午後からミチさんちのペンキを塗ることになっていたから「美味しいハーブティー飲みませんか?」と彼女も誘ってみた。
もしかしたら、彼女たちの会話の中から「静かに暮らす」のヒントが見つかるかもしれない、という下心もあった。
そして、何となく……彼女ともう少しいたかった。
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