第97話 決勝戦
決勝戦開始十分前となった。
時間も時間なので、僕はすずと一緒に決勝戦が行われる体育館へと来ている。
その体育館の舞台には
合唱で歌う順番はクラス順となっているので、九組の僕は最後だ。出場クラスだからと言って、最初から見ていないといけないわけでもないんだけれど、この合唱決勝戦って結構盛り上がるんだよね。
だからか思ったよりも体育館は人がいっぱい集まっているんだけれど……。
「……すごい人がいっぱいだね」
周囲を見回しながらすずが、僕も思ったことを言葉にしてくれた。
去年も見に来たんだけれど、なぜかそのときよりも人が多い気がする。……いや気のせいじゃないかも。やっぱり多いんじゃないかな。
今年は何かあったっけ……。
「うーん、去年より多いかも」
「そうなんだ」
「うん。僕も去年は決勝戦は最初から見てたんだけれど、こんなに人はいなかったと思うんだよね」
一年前の記憶を掘り起こしても、ここまで観客がいたという風景は思い出せない。
開始直前のこの時間でも、体育館に入ってこようとする人がちらほらといて、途切れる様子がない。
そのうち体育館に入りきれなくなるんじゃないだろうか。
『お集まりの皆様、大変長らくお待たせいたしました!』
――と、体育館の入口を眺めていたときに、体育館内に響き渡る放送が耳に入ってきた。
どうやら決勝戦が始まるらしい。
体育館の舞台へと振り返ると、隅の方に制服姿の男子生徒がマイクを持って立っているのが見える。
『ただいまより、御剣高校三年生による合唱イベント決勝戦を行いたいと思います!』
大仰に手を広げる身振りの司会者に合わせるように、観客からもそこそこ大きな拍手が巻き起こる。
さらに司会者が、毎年恒例になっている挨拶に続いて、合唱イベント決勝戦に残ったクラスと、その各クラスが選んだ課題曲を読み上げていく。
『ではさっそく、一組の登場です!』
最初に出演するクラスを紹介すると、司会者がそのままわきへと捌けていく。
と同時に、閉じられていた
舞台から現れたのは一組のメンバーたちだ。ほとんどが制服姿の男女だけれど、ちらほらと私服組がいるようだ。
観客からは盛大な拍手が鳴り響いていたが、舞台のクラスメイトが一斉にお辞儀をし、指揮者が前に出て伴奏者がピアノへと座ると次第におさまってくる。
そして指揮者が両手を上げると――前奏と共に合唱が始まった。
『さあお次は五組です!』
一組と三組の合唱は、特に趣向を凝らした演出もなく無事に終わった。
最初に校歌を歌ったあとに、課題曲という順番も同じだ。
そして次のクラスは、連弾を披露した女子生徒のみで構成される五組だ。
左右の脇から五組の生徒たちが現れると同時に、観客にどよめきが広がる。
「うわぁ……、すごいね……」
僕の隣ですずも驚いている。というか僕もビックリだ。
先ほどの一組や三組と同じく、制服に一部私服が入り混じった服装で登場するのかと思っていたけれど、舞台には女子生徒たちが揃いの衣装で現れたのだ。
揃いの衣装といってもデザインまで揃っているわけではない。三年生の合唱に出る予算ではそこまで揃えられないだろうし……。
でも遠目から見る分には、みんなワンピースを着ているだけで揃っているように見える。
さっきまでは制服と私服が混合するクラスだったので、余計に際立っている。
クラス全員が舞台へと集まると、全員でぺこりとお辞儀をする。その集団から二人がピアノへと、一人が指揮者なのか前へと出てくる。
そして五組の合唱が始まった。
一日目の予選でも聞いたけれど、校歌もやっぱり連弾だ。
最初僕は、左手と右手のパートを二人で手分けして弾くのかと思ったんだけれど、まったく予想が外れたんだよね。
ただの校歌なのに、まったく違う歌に聞こえるんだから不思議だ。
「じゃあそろそろ僕も準備があるから行くね」
演奏が始まった頃に、僕はすずへと声を掛け。
「うん。がんばってね」
見送られながら、九組のメンバーが集まりだしている舞台裏へと急いだ。
学校の施設である体育館なので、控室などは存在しない。皆で舞台袖に集まるだけだ。
「おう、黒塚」
「黒塚っち。……ずいぶん気合いが入ってるみたいね」
さっそく早霧と黒川に声を掛けられるが、今日の午前中に見てしまった光景を思い出してしまい、思わず言葉に詰まってしまう。
「……えーっと?」
別に気合いを入れたつもりはないんだけれど……。なんのことだろう。
「あ、黒塚くん、それって雑誌に載ってた服だよね」
黒川の隣にいた女子生徒――
撮影のバイトに行くたびに……とまでは言わないけれど、監督から服をもらうことがある。
今日もそのうちのひとつを着てきただけだけれど、確かに撮影のときに着ていた服なのは確かだ。
「あ、うん。……そうなるかな」
だからと言って狙って着てきたわけではない。もらった服が増えてきてたまたま選ばれただけとも言える。
だけどさすがに人気店の最新モデルだけはあって、選ぶときに迷いはなかったけれど……。
「これは……、優勝はもらったも同然ね」
不敵に口元を笑みの形に変えて呟く四季辺さんに、僕は首をひねる。
いやなんでそうなるんですか?
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