第56話 藤堂学院大学
今日は海の日。つまり、秋田さんとオープンキャンパスへ行く日だ。
期末テストも無事終わり、終業式を明日に控えている。それが終わればもう夏休みに入る。
これから行くのは秋田さんの通う藤堂学院大学だ。
モールの裏手に位置し、広大な敷地を有するこのあたりでは有名な大学だ。
デザインやメディアと言った分野に特化しており、テレビなどでも見かける卒業生もいるとかいないとか。
そういえば動画サイトでも、ここに通ってるっていう学生が放送をしていたような。
今日はモノクローム仕様の服装で行こうと思う。撮影のときにもらった服だけれど、デザイン系の学校とは言え僕自身は目立ちたいわけではないのである。
秋田さんが案内してくれることになっているけれど、今回は僕が秋田さんの家まで迎えに行くことになっている。
……隣だけどね。
時計を確認すると九時半だ。そろそろ行かないと。
僕はボディバッグを背中に引っ掛けると、玄関を出て隣の秋田さんの家へと向かった。
インターホンを押すと笑顔の秋田さんが顔をのぞかせる。
「黒塚くん、おはよう」
「おはようございます」
今日の秋田さんは青系統で色合いの薄いワンピースに、七分袖の白いカーディガンを羽織っている。
……やっぱり秋田さんはかわいいな。
ぼんやりとそんなことを考えながらも、今日は案内してもらう側なのでしっかり挨拶しておかないと。
「今日はよろしくお願いしますね」
「うん。こちらこそよろしくね」
二人並んで駅へと向かう。どうやら今日は本当に二人きりらしい。
……もしかしたら野花さんも、と心のどこかで思っていたんだけれど。
残念なような嬉しいような、自分でもそれはよくわからなかった。
「うわー……、すごい……」
僕の目の前には大学の正門が大勢の人間を吸い込んでいく光景が広がっている。
オープンキャンパスって初めて来たけれど、てっきり僕みたいな受験前の人たちしか来ないものだと思い込んでいた。
だけれど今大学へと入って行く人たちには、子ども連れの親子だったり、中学生くらいの友達同士の集団といったグループもいる。
「ここがわたしたちの通う学校だよ」
いらっしゃいとばかりに正門を背にして両手を広げる秋田さん。
その背後には広大な敷地にいくつかの建物が見える。それぞれで学科が違ったりするんだろうか。
モールから遠目に見える大学はひとつの建物しか見えなかったから、実際に来てみるとその大きさが実感できる。
「ほら、行くよ?」
いつまでたっても動かない僕にしびれを切らしたのか、秋田さんが僕を急かすように手招きしたかと思うと、そのまま背を向けて学校へと歩いて行く。
僕もあわてて秋田さんを追って学校の敷地内へと足を踏み入れた。
一番近くにある建物は六階建てだろうか。正面玄関は半円状に広がったステージのようになっており、実際に文化祭などではステージとして使用されることもあるらしい。
玄関ホールに入るとまったくもってどこのホテルですかといった様相を呈してた。
正面に噴水があり、その両側から二階へと伸びる階段が弧を描いて続いている。
そんな玄関ホールにはテーブルがいくつか並べられており、今日のオープンキャンパスを案内するパンフレットが置かれていた。
「はいコレ」
呆然と噴水を見つめる僕に、秋田さんがパンフレットを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
なんというか、高校と全然規模が違う。圧倒されながらも渡されたパンフレットを開くと、今日行われるイベントと、学科などが記されている。
えーっと、デザイン学科に、メディア学科と……、へぇ、演劇学科や写真学科、映画学科なんてのもあるんだ。
「ちなみにここは事務棟で一番大きい建物だよ。学食とかも一階にあるしね」
一通りパンフレットを見終わった僕に秋田さんが説明してくれる。
「そうなんですね」
僕は学食があると言われる左手に視線を向ける。奥へと続く廊下には、学食のメニューがイラストと共に書かれていた。
「ここの学食は安いし、誰でも利用できるからいつでも人がおおいのよね」
「へぇ……、誰でも使えるんだ」
「うん。たまにだけど、建設現場で働いてそうな作業着とヘルメットつけたおじさんとかも見かけるよ」
おおぅ、それはまたホントに色んな人が来てるんだなぁ。
「えー、なんだかすごいですね……」
「最初に見た時は、あの人誰? ってなったからね……。誰でも利用できるって知らなかったから……」
その時の自分を思い出したのか、秋田さんは苦笑いだ。
まだ午前中の十時過ぎくらいの時間帯だけれど、学食へと向かう人の姿も見える。
食堂というよりもカフェって感じなのかなぁ。
「ふふ……、じゃあさっそくメディア学科のほうに行ってみる?」
変なところに感心していると、秋田さんが僕に本来の目的を思い出させてくれた。
確かにそうだ。学校見学に来たのは間違いないけれど、僕はメディア学科がどういうところなのか見に来たんだ。
「はい」
パンフレットにも場所は書いてあるだろうけど、秋田さんが先頭を切って歩き出したので僕も後ろに続いた。
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