第34話 カレー料理 -Side秋田すず-
マーガリンを塗ったグラタン皿を黒塚くんに渡すと、ご飯と焼いた食パンにカレーをかけたお皿が返ってきた。
そして、一緒に冷凍のとろけるチーズを手渡される。
「お好きなだけ乗せてください」
おお、黒塚くん太っ腹! わたしはチーズが大好きである。なのでそう言われたら好きなだけかけちゃうぞ。
大盛りにチーズをかけたらオーブントースターで加熱だ。どうやら大きいトースターのようで、グラタン皿が二枚同時に焼けるみたい。
焼けていくチーズを見ていたくてトースターの中を眺めていると、後ろから茜ちゃんの声が聞こえてきた。
「一人暮らしなのに大きいオーブントースターですね。……そういえば冷蔵庫も大きいし」
気になったのか、茜ちゃんが珍しそうにしている。確かに、一人暮らしの部屋にしては大きい家具や家電が多い気がする。
すると黒塚くんが、両親が海外転勤で日本におらず、学校も遠いのでこれを機に引っ越してきたというのだ。
「えええ!? じゃあ夏休みとかどうするの? 実家……は誰もいないの?」
そんな話を聞いたわたしは居ても立ってもいられなくなって、思わず黒塚くんへと詰め寄ってしまう。
椅子に座っている黒塚くんは上半身を仰け反らせて焦っているようだ。
「……元々住んでた家は引き払っちゃったのでないですね。あえて実家と言うんであれば……、ここ……なのかな?」
えええ、そうなんだ……? 引っ越した先が実家って……、元々住んでた家を引き払っちゃったんならそうなるのかな。
……あれ? じゃあ里帰りってできないのかな。
「そうなんだ……。ちょっと寂しいね」
なんとなく寂しくなって、わたしはそう呟いていた。
ちょっと沈んだ気分になりかけていたところに、グラタンの焼きあがるトースターの音が鳴った。
「あ、できたみたい」
わたしは気分を紛らわせるようにして、キッチンの流し台にぶら下げてあった鍋掴みを持ってきてトースターからグラタン皿を出す。
そんなわたしとすれ違うようにキッチンにやってきた黒塚くんは、カレーうどんの仕上げをしているみたいだ。
「はい、できあがりです」
「おおー、どれも美味しそう!」
「お二人が先に選んでいいですよ」
やっぱりここは定番メニューは避けて、グラタン皿狙いだよね。
うーん……。カレードリアもレストランじゃたまに見かけるし、ここはパンドリアかな。
こうしてわたしはパンドリア、茜ちゃんがカレードリアで黒塚くんがカレーうどんに決まった。
「「「いただきます!!」」」
わたしはフォークでいい具合にとろけて焦げたチーズを切り分けて、食パンに突き刺して口へと運ぶ。
「――!!!」
ナニコレおいしい! 食パンにしみ込んだカレーにチーズがとっても合う。
はふはふさせながらわたしは夢中になってパンドリアを口に運んでいく。
ふと黒塚くんを見ると、箸が進んでいないようだ。どうしたのかなと思いつつもとてもおいしいことを笑顔で告げると、黒塚くんに笑顔が浮かんでカレーうどんを食べだした。
茜ちゃんも笑顔でカレードリアを食べている。……そっちはどんな味がするんだろうか。
「茜ちゃん、カレードリアもちょっとちょうだい」
気になったわたしは、茜ちゃんの返事も聞かずにフォークをカレードリアに突き刺して強奪した。
「あっ、ちょっと」
非難の声を受けるけれど気にしない。返事の代わりにわたしのパンドリアのお皿を差し出しておいた。
「こっちもおいしい!」
「――ホントね」
わたしのパンドリアを食べた茜ちゃんも満足のようだ。
「黒塚くんって料理上手だよねぇ」
「え、そうですか……?」
「うんうん。いいお嫁さんになれると思うよ?」
「えええっ!? ――いやいやいや、僕は男ですってば!」
「あはははは!」
こんな調子で黒塚くんにお昼をご馳走になって、その日は解散したのだった。
うん。とっても楽しかった!
あれから何度か黒塚くんとは料理のおすそ分けをお互いにするようになった。
慌てる黒塚くんを見てみたくて、友達が家に遊びに来ているときに茜ちゃんと二人でおすそ分けを届けに行ったりもした。
後ろにいる友達を気にしながら、わたしと受け取ったタッパーへ視線を行ったり来たりしている黒塚くんは、見ていて楽しかった。
そしてゴールデンウィーク突入の前日。
スーパーで買い物をしていると黒塚くんに出会った。
以前から茜ちゃんとモールまでお出かけする約束をしていたんだけど、黒塚くんと一緒に行けたら面白いよねーって一度話題に上がったことがあった。
ちょうどいいし誘ってみようかな。こういうのはタイミングが大事だよね!
焦った様子で了承してもらったけれど、もちろん二人きりがよかったのかとか、からかってあげたよ。
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