穏やかでない午後

 私服姿で来たこの本屋併設カフェは異世界人も入れる所だ。

 当たり前のように日本の十二月は寒い。温まりたくてそこに入ったわけだが。

「やあ、会えたね。エトウ」

 普通にリアムが居た。

 こうして見ると外国人にしか見えない。

 でも、俺達の話を聞いている人が居たら、異世界語が分からない限り、何を言っているか分からない言葉となる。

「お前、何してんだよ?」

「いやね、皆帰っちゃったんだよ。オレはちゃんとした方法で来たからね。数日は居なきゃいけないんだ。こっちに」

 リアムはちらっと一瞬背後の女性を見て、場所を変えようか……と歩き出した。

「どうしたなんて聞かないでくれよ。あの女性は異世界語が分かる。耳を髪で隠しているけど、ちょっととんがっていると思うよ。それに綺麗な目の色だったね。あれはエルフと人間のハーフ、いや、クォーターかな」

「そんなの居るわけ!」

「まあ、日本には居ないだろうね。産めないからね。異世界人との結婚は認めていても出産までは認められていない。あの女性は異世界で生まれ、こちらに来たんだろうね。じゃなきゃ、出来た時点で失くされた命だ」

 リアムは平然と言い、いろいろと見て回る。

「……サラ王女達が帰ったって言っていたけど、それはあの……魔法で帰ったのか?」

「ああ、人目のない所を探すのには苦労したけどね。サラ王女というか、あの世界の王族にしか使えない特別な魔法。ルートの神と契約しているからね、母である人の体内の中で、古の魔法陣でこっちの世界に行ったり来たりできるテレポートだ。それでレギナの隠れ蓑としていた双子の一人は帰って行った。そして、オレがまたあの世界に戻る頃、もう一人がやって来る」

 どういう方法で……とは聞かない方が良いだろう。

「うろうろはしてないようだ。あの保護施設にはレナード侯爵は近付かないだろう。大変お世話になったようだから」

 そう言って、リアムは気になる本を見つけたようで、そちらに歩いて行く。

 異世界語で書かれた本……まだ数が少ない。

 そういえば……と思い出した事がある。このリアムにいつの時だったか、ティノがクレアから教えてもらったというあの話、あれの真偽を聞くのは間違っているかもしれないが、俺の知ってる異世界人は今、彼しかいない。

「なあ、あんたは一度日本に来てしまった異世界人があの世界を永住の地にしちゃいけないとかっていう話、聞いたことないよな?」

「それは……」

 リアムの手が止まった。

 え? これ、本当の話? さすが、神様……どこまでが正しいのか分からなかったが。

「今の王がお決めになったことだ。でも、サラ王女はその王に可愛がられてる。ちゃんと表立って言える子だからね」

 何を言ってるんだ? リアムは。

「愛する子が出てしまったからね、王は悩んでいるようだ。サラ王女の兄を王位継承第一位にしたのもそういう理由だ。あの世界では生まれた順ではなく、現王が決めた順で男女関係なくそうすることが出来るんだ。もちろん、その王が生きている間にその順位を決め直することもある。まあ、そうなったのもサラ王女の兄は少し残虐気味でね、サラ王女は心優しい所があるが少し好奇心が強すぎる。どちらが優先されるべきか、悩んでお決めになったことだ。ここだけの話、その兄である王子とサラ王女の間に一人、王には娘がいるんだ。もちろん、秘密の愛の末に生まれた王妃の血を継がない子だよ。それをサラ王女と王妃は知っている。だからってわけじゃないけど、良い隠し場所が出来たと王はその娘をこの日本にやった。まあ、驚かなくても良い。よくある事だ。その娘を探す為にサラ王女は数年前にこの東京に来たってわけだ。会ったことのない姉に会いたいと。でも、まあ、生きていることは確認されているんだけどね、どこに居るのかまでは分からない。魔法も使えないようだし、普通に生きていると思うんだけど」

「おい、それは」

「まあ、こんな余談は止めておこうか。いつか、サラ王女が王になることができた日には、それもなくなるとオレは信じているよ。それより、君、気付いてる? 自分が置かれている状況に」

「は?」

「君には感じられないかい? 君は変なのに憑かれているみたいだね。そういう体質なのかな?」

 何を言ってるんだ? こいつ。

「確か、このビルは魔法使っちゃいけないんだよね。だったら、外かな? 外からでもこれだけの気を放って来るってことは、悪魔とかの類なのかな」

 リアムはしれっとそう言った。

 悪魔? 俺が知ってる悪魔って言えば……。

「あっ」

「何? 知ってるって感じの言い方だったね。逃げた方が良いかもね」

 リアムに言われ、感じてみたが……。

 この感じ、どこかで……あのヴァンパイアお嬢様の時だったか、最後に部屋を真っ暗にされた時に背後から感じたのと同じ。首筋のはヴァンパイアお嬢様、だとしたらこの怖さが少しあるこれは。

「太陽がある間に帰るべきかな? オレはもう少しここに居るよ」

「一緒に来てくれ」

「何でそうなってるんだい? あれはレナード侯爵のやつじゃない。平気だよ」

「でも、何かあったら、あんた困るだろ?」

「軽く困らせて来るなんてね……、まあ、良いだろ。それは本当だ。レギナの後見人が君ではなくなったら困るからね。少し」

 そう言って俺達はその建物から出て、それから逃げることにした。

 だが、それは一向に俺達の前に姿を現さず、結局、柊月のメールが来て、俺はリアムと別れ、無事にまた保護施設に戻り、柊月と一緒に外に出た。

 確か柊月の冒険者レベルは5だったか……それはつまり……俺よりかなり強い。

 もうあっちの世界では一人前の冒険者としてやって行けるレベルだ。

 安心だ。俺は少し気にしながら完全に異世界人達が侵入できないようになっている柊月のマンションの中に入り、食材がない! と言う柊月の買い物に付き合わされ、またこの安全安心な異世界人達や魔法お断り!! なマンションにやって来た。

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