もしもの時の職探し

 平穏無事とは良い事だ。

 だが、快調に過ごせていた日々が懐かしい。

 あのサキュバスのお姉さんが居なくなってからなのか、魔法を使えるようになってからなのか……朝起きるのが億劫になって来た。

「はあ……」

 俺はそのままジャージ姿でティノとクレアが居るリビングに向かう。

 リビングに入ると朝食の良い匂い、そして、浴衣姿の女神が言って来た。

「なぁにぃ? その格好……ジャージって……今日もご苦労ね」

 床にごろんとしながら言うな。

「仕方ないだろ、まだ対象モンスター来ないんだから」

「でも、遅いですよね。あれからまた数日経ってます」

「もう来たって良いのに来ないってことは! はっ、派遣切りよ!!」

 怖い事言うなよ……、この女神。

「でも、そうだとしたら本当考えなきゃな……」

「何々? 次の仕事は何にするの?」

「何でお前に言わなきゃいけないの?」

「だって、まあ、良いわよ。すぐに見つかると良いわね。派遣? それとも正社員?」

「正社員は嫌だな……。正社員じゃ出張って形でならこの異世界に来れるかもしんないけど、期待は出来ない。だから」

「派遣ですか……」

 何でそんなにティノが沈んだ感じで言うの? 俺はちょっと納得出来ずにクレアを見る。

「まあ、良いじゃない。思う所はそれぞれよ。まあ、そうね、派遣なら……またどこかで会えるでしょう」

 そんな事を言って、クレアは立ち上がり、テーブルの上の朝食を見る。

「今日はご飯とみそ汁と納豆と焼き鮭かぁ! 日本の朝食ね!!」

「はい!」

 元気なやり取りだ。

 俺はクレアの隣に座り、ティノは俺の向かいに座る。

「いただきます!」

 三人で食べる食事、あと何回あるだろうか……。

 そのまま各自、いつもの如く、やる事がないので適当に過ごす。

 だが、俺は違う。

 この日から一日中やっていた魔法の練習を、午前はもしもの時の為の職探しに変えた。

 良い仕事というのはいつも見ているからこそ、分かるものである。

 毎回毎回更新されるたびに最新となっているものもあるから注意せねば……。

 そうして本腰を入れ、パソコンを使い探し始めたところ……何かの音がした。

「ねえ、ヨシキチ」

「何だよ?」

 ひょこっと俺の部屋に現れたクレアに俺は答えてしまった。

「私も今日、ヨシキチの魔法の練習に付き合いたいな~」

「何でだよ?」

 急な展開、嫌な予感。

「変な事を企んでるだろ?」

「ううん、全然。ずっと温泉入ってるのも疲れたし、そろそろその……体を動かしたいなって……」

 何故、わざわざそんな事を言うのか……怪しい。

「ねえ、ヨシキチ、聞いてる?」

「聞いてますよ。勝手にすれば良いだろ。俺は職探しに忙しいんだから、出てけよ!」

「やった! じゃ、行っても良いのね?!」

「ああ」

 何この喜びよう……。

「今日は天気が良いから、ちょうど良いわ!」

 何一人で盛り上がってんの?

「ねえ、ヨシキチは今、何の練習してるの?」

「フレイム……」

「そ」

 それだけで会話が終わってしまった。

「でも、ちょっとは良くなってるんだ!」

「分かったから、何時に行くの?」

「リリーさんの魔法学校の仕事が終わってからだから」

「分かったわ! そのくらいになったら声掛けてよね!」

 そう言ってドタドタとクレアは部屋から出て行った。

 ティノちゃんはお留守番ね! なんて声が聞こえて来る。

 はあ……何か億劫になってる原因ってあいつじゃね? なんて気がして来てしまった。

 あんまり良いのがない。

 まあ、探し始めの今日だ、気にしないで行くか。

 俺は玄関でクレアを呼んだ。

「行くぞ!」

「あー! 待ってよ、ヨシキチ!」

「お前……」

 浴衣姿のままで行く気らしい。

「何よ、文句があるの?」

「いや、いつもの感じだなって思っただけだ」

「そ」

 それだけ言って、クレアはいつものようにサンダルで歩く気らしい。

「神様はすごいんだな」

「へ?」

「あんな道をそれで歩くのか……すごいわ」

「そ、そうよ! 私には疲れたら策があるの!」

「へー、どんな?」

「それはまだ言えないわ!」

 こんな女神様と連れ立って、俺はリリーさんの勤める魔法学校へと向かった。

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