宿の先客

 宿だと分かる看板には伏せをしている凛々しい顔の雄ライオン、この宿の名前は『モヴ・リオン』だからか、紫色のライオンの置物が招き猫よろしくカウンターの隅に置かれている。

 通りに面してあるこの宿の先客達は俺の話を聞いていたのか、俺がそこを通るとジロッとこちらを目だけで見た。

 怖い。

 その中でも怖いのが揃いの黒のトレンチコートを着た男二人、近衛兵のように表情が硬い。

 そしてその二人の男に挟まれるようにして痛々しくぐるぐると大量の白い包帯を頭に巻いて両目をずっと閉じている五歳くらいの白いワンピースというより、ネグリジェのような物を着た幼女。

 どんな三人組でその席に座っているんだ。

 だが、じろじろとそれ以上見ていると何か言われそうな気がして、目を逸らした。

 今、あの幼女の包帯の中がもそもそ動いていたような……いや、気のせい! 気のせいだ!! そう信じ込んで、俺はその後ずっと自分の部屋にこもり、寝た。

 久しぶりのぐっすりさだった。

 あのドタバタという足音と共に俺の部屋をバン、バン!! と叩き、ちょっと~! ヨシキチ~!! もう晩ご飯~!! という女神の大声を聞くまでは。

 うっせー……ここは、どなたですか? 誰かのお部屋とお間違いではありませんか? とオネエ口調で言って勘違いさせる! という方法で切り抜けてやろうかと考えていた時だった。

 キャーーーーー!!!! というご婦人の叫び声が階下から聞こえて来た。もしかして、俺のパーティメンバーの残りの一人が何かしちゃったのか?!! なんて思い、勢い良くドアを開けたのだが!!

「んーーーっっ、いっっったぁ~……」

 おでこを強打されたのか、そこを両手で押さえてうずくまる浴衣姿の白髪女神の姿があった。

「あ、わりぃ」

「悪いって! ちょっと軽すぎるんですけど!! もっとちゃんと謝ってよ!!」

 目に涙が溜まっていた。そんなに痛かったのか……でも今は!

「後でちゃんと謝るから!! それよりティノはどうした?! あの叫び声と何か関係あるのか?!」

「ん~~~……関係……あるかも、しんないけど……」

 口を曲げて、それ以上言ってくれない。

 もう良い! 俺は女神の機嫌取りの前に階下へと向かった。

「ちょっと待ってよ!! ヨシキチ! 階段そんな音出して下りちゃダメなんだから!!」

 どの口が言ってんだよ!! この女神!!

「っと!! どうしてこうなってる?」

 俺はカウンターのある階下で人だかりとなっている隙間からそれを見た。

「あ、頭が、やっぱり……包帯の中がもそもそ動いていた気がしたのよ!!!」

 ご婦人は気を確かに!! と宿の人に言われながら何かを指差し見ている。

 何だ? と見てみれば、先ほど二人の男に挟まれて座っていた幼女の頭の包帯が取れ、その髪……が露になっていた。

「あ、あれは?」

「緑色とターコイズのライノラットスネークに似た感じのステキな髪をしてますね」

「な! ティノ!!」

 ぼそっと呟かれたその言葉に俺はそんなの知らない!! と叫んでやろうかと思ったが止めた。

 こんな狭い宿でこの密集さ……迷惑な事はしない方が良い。

 それによく見れば、その髪、顔で分かる。その幼女が今度の俺の仕事となる相手、メデューサだと。

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