ガイコツ、カクカク、スケルトン

 ドンドン! とドアを強く叩いて怖くなりましたあ~! とティノが俺に泣きついて来ることもなく、無事、朝になった。

 俺はベッドから起き上がり、服を着替えてリビングに行く。

 キッチンからは良い匂いが残っており、そこで作った物をテーブルに並べるティノの姿があった。

 夜中、トイレで起きて来た時のサーモンオレンジ色のシンプルなパジャマ姿を思い出し、今の魔法使いらしい黒い格好を見る。まあ、今の姿は俺に背を向け、これを奥にやるんだ~! と一生懸命に目玉焼きとベーコンの乗った皿を片手でぐーいっとやっている。そのついでのように丈の短いスカートがオレンジ色の要素をチラチラと見え隠れさせている。

 まったく横着だ。回って置けば良いものを……という言葉をかけてやりたいが、今は止そう。頑張りの邪魔をしてはいけない。

 それにまあ、下着は好きなのはくよね……というのも内心にしまい込み、こう言うことにした。

「やっぱり、オレンジ好きなんだな……」

 そんな呟き声でやっと俺の存在に気付いたのか、ティノがこちらを見ながら言った。

「おや、おはようございます」

 見えてるぞー。なんて誰が教えるのだろう。

 俺は普通に挨拶した。だからもう見えない! とか思わない。相手は子供体形の女の子。エロさとは無縁の女の子! ツインテールの魔法使い女の子!

「ティノ、おはよう! 昨日は大丈夫だったか?」

 入り混じってしまった感情にティノは少し困惑したものの、あれのことだと分かったらしく言った。

「……ああ、大丈夫ですよ。何を心配しているのか分かりませんが、ちゃんとこの通り! ちょ! クレアさん、どうしたんですか? 離れて下さい!!」

 部屋から素早く出て来たクレアはバッとティノをその手で包むようにして守る。いや、あの時の俺のようにティノを盾にしている……のか……。

「どうした? お前」

「ティノちゃん、離れて! この男とそこの縦長の木箱から離れるの!!」

「おい、何言って」

「これは女神の勘よ! ヨシキチのはとても分かりやすいものだけど、そこのテレビの前に置いてある縦長の木箱から漂って来るのはとても邪悪! この女神様が直々に浄化してやる!!!」

「本当、何言って……」

 あ、そうだった。クレアはそういうの分かる系だった。

「分かったよ、ごめんな!」

「軽い! もうちょっとちゃんと謝ったらどうなの!! このケダモノ!」

「ケダモノって……」

「まあ、落ち着いて下さい。クレアさん、あれは思うにそういう系ではありますが、ケダモノみたいなことはしませんよ。だって、あれは」

「おい! ティノまで?!! 俺はそんなに、お前らが思うほどガツガツしてねぇ!!!」

「朝、すっきり爽やかに起きれてるって言うの?!」

「ああ、そうだよ。どこかの誰かさんみたく、無駄に若くもないし、ほどほどだよ、ほどほど」

「あー、聞きたくないの朝から聞いてしまいました……」

「前の人は女の人だったものね……しょうがないわよ、経験値は低いわ。この男」

「おい、何だよ。朝からそんなこと言っちゃうお前にはこうしてやる!」

 俺はズカズカとその前に立ち、新品の木箱から漂う木の香りを吸い込んで、バン! と!!!

「開けさせないわよ!!」

「何すんだ! クレア!!」

 瞬時にテレポートでも使ったのか、俺と縦長の木箱の間に両手を広げて立ち、自分の思いを打ち明ける。

「開けさせない! 開けさせない!! 私の準備がまだだもの!!!」

「開けさせないって、準備って何だよ!」

 クレアはバッと後ろを向くとあんなに嫌がっていたその木箱の蓋を開けないようにギュッと力を込め、押さえ始めた。

「ちょ、離せよ! 開けんだよ!! このフタを~!!!」

 俺はクレアのいない場所からその縦長の木箱の蓋を開けようと力を入れる。

「グググググ!」

 何だ? この力……。女神の方が勝つのは当たり前だと言うのか!!?

「フ! 貧弱な者よ、この私に勝てると思って?」

 何その悪役令嬢みたいな言いぐさ! ムカつく―!!!!!

「トオゥヤアアアアアア!」

「きゃー!!」

 何がきゃー!! だ。可愛く言ったって無駄だからな! 俺はこれを開けて仕事をするんだ!! 派遣社員をナメんなよ!!! これが開けられなかったせいで派遣切りにでもなってみろ! それも全てこの温泉の女神のせいにしてやるっ!!!

「わ、分かったわ! 落ち着いて! ちょっと……一つ、魔法をかけても良いかしら?」

「そのくらいは良いだろう。フーフー……。ただし、この木箱に魔法をかけるのはダメだからな!」

「分かったわよ……」

 仕方ない……という風にクレアは自分に魔法をかける為なのか、胸の前で手を交差させる。そして。

「バリア!! よし、良いわよ!!」

「お前な……」

 呆れた。完全にあいつの思う壺だった。

 そんなに嫌なのだろうか…これが。

 俺はクレアが退いたのを見ると言った。

「じゃあ、今度こそ本当に開けるからな?」

「良いわよ! ドンと来なさい!」

 俺はクレアの言葉通り、バンッッ! とその縦長の木箱を開けた。まるで棺桶かんおけみたいな要領で。

「ガイコツ」

 アンデッドだった。

「バリアしといて良かったわ~」

 ぽつりと呟かれたクレアの言葉が合図となったのか、カクカクカク……と乾いた音でその全身が鳴り始めた。

 カクカクカクカクカック!

「何よ、これ?」

「カクカク!!」

 久しぶりの再会!! とでも言うように目を輝かせるティノ。

「おい、お前、こいつと知り合いなのか? こいつはスケルトンだ。分かってるか?」

「はい、カクカクです!!」

 ダメだ、こいつもこいつでダメだった。

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