第47話
晶が着替え終えた後、替わって更衣室に入った隆輝が、準備を終え道場に現れると、なぜか剣道場の周りに人が集まっており、隆輝は驚きつつもそれを見回す。
観衆の中にはクラブ活動中であるはずのアイリや愛美、そして晋一の姿もあったが、大半は帰宅部の1年生である事から、隆輝は部員獲得の為に香織が仕組んだ事と理解した。
「2人とも頑張ってね、でも怪我はしないように!」
アイリの声援が場内に響き渡ると、その声援に隆輝も晶も思わず口元が緩む。
「遠慮するな桂木ちゃん。飛沢なんて打ちのめせ!」
しかし直後に聞えた愛美の声援に、隆輝の表情は強張っていった。
隆輝と晶は、それぞれウォーミングアップの為に素振りをしたり、動きの確認を行うが、その最中に隆輝の所に剣道着を着た成美が現れる。
「どうしたんだ細川?」
「まあ、最初に桂木さんの手伝いをと思ったけど、断られたから」
成美はそう言いながら苦笑いを浮かべるが、隆輝が横目で晶を見ると、集中していると同時に、誰も寄せ付けないような雰囲気を出しており、成美の言葉に納得した。
「それで、そっちは何か手伝う事あるかしら?」
成美の言葉に、隆輝は軽く微笑む。
「じゃあ、ちょっと間合いを計るから、協力してくれるか?」
「ええ」
そう言うと成美は、何故か距離を取るどころか隆輝に近付いていく。
「あまり大きな声で言えないけど、剣道部の為にも頑張ってね」
「ああ」
成美が隆輝から離れると、隆輝は彼女の正面に立ち、槍の長さを想定して踏み込み等を確認するが、何か納得出来ないまま時間が過ぎていく。
「あと3分で始めるわよ」
そんな中、香織の声が場内に響くと、集まっていた観衆の緊張感も高まり、剣道場は異様な雰囲気に包まれるが、隆輝は仁王立ちのまま微動だにせず考え込んでおり、気になった成美は再び隆輝に近付いた。
「どうかしたの?」
「そうだな」
隆輝はそう呟くと、おもむろに防具を外していく。
「飛沢君?」
驚く成美を尻目に、隆輝は防具をすべて外し終えると、道着と袴姿となり素手で竹刀を握る。
「よし」
隆輝は納得したようにそう口にして、竹刀を振るが、その様子を見ていた晶の表情は険しいものに変わっていく。
「飛沢君、それは危険じゃないかしら?」
「この間、晶の槍さばきを見たけど、あの正確さとスピードを相手にするなら、この位の覚悟は必要だと思う」
「そう、無理しないでね」
隆輝の表情を見て、これ以上は何を言っても聞かないだろうと確信した成美は、優しくそう言うと、試合開始が近づいている事に気付いてその場を離れていった。
「はじめるわよ」
香織の言葉で、白いタスキをつけた隆輝と、赤いタスキの晶は境界線に立つ。
そして正面と互いに礼をした後、2人は対峙するが怒りの感情が見てとれる晶に対し、隆輝の表情は落ち着いており冷静そのものであった。
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