第35話

 翌日、新入生歓迎会は生徒会の挨拶で幕が開け、その後各委員会の説明が始まった。


 隆輝と成美は剣道場が使えない事もあり、学園の更衣室で着替えを済ませると、控え室とされている教室に移動する。

 藍色の道着の隆輝に対し、成美は白の道義を着用しているが、その立ち振る舞い含めて、隆輝は彼女には白の道着が似合っていると思った。


 そして教室内にはすでにユニフォームに着替えた各運動部の面々が揃っており、その中にはサッカー部の晋一や、ラクロス部のアイリと愛美の姿もあった。


「なかなか戦闘力が高そうな出で立ちだな」


 晋一はそう言いながら屈託のない笑顔を見せる。その晋一は流石にサッカーのユニフォームが決まっているものの、全体を見るとどこか違和感が隠せなかった。


「さすがに上履きだと違和感あるな」


「仕方ないだろ、屋内はスパイク禁止なんだから」


 そしてアイリには相当剣道着が興味深いらしく、隆輝と成美を全方位から見続ける。


「これは、外人特有ののジャパーニーズサムライへの憧れか?」


「こら、アイリを観光客扱いするな」


 アイリは隆輝と愛美の会話も耳に入らないらしく、成美に借りた竹刀や防具を嬉しそうに手にしていた。


「それにしても、ラクロスのユニフォームって初めて見るけど」


 隆輝は愛美をつま先から頭の先までマジマジと見つめる。上着はサッカーと同じ様な見た目で、尚且つその材質から同様の機能を備えていると思われるが、それよりも腰から下を覆うチェック柄のスカートが隆輝の目を引き、完全に視線が固定される。


その視線に気が付いた愛美は、思わず後ずさりして背を向けた。


「ちょっと、変な目で見ないで」


「失礼だな。結構可愛い格好だと思っただけだのに」


 隆輝の言葉に、思わず愛美の顔は赤らむ。


「しかし、スカートがユニフォームっていうのも、なかなかだな」


 隆輝の視線が再びスカートに集中すると、愛美はアイリの背に隠れた。


「アイリ! 飛沢がやらしい目で私達を見る」


「えっ、そうなの?」


「誤解だ。アイリが剣道着を珍しいと思うのと同様、俺にとってラクロスのユニフォームが珍しいだけだ」


「だって」


 アイリは隆輝の説明に納得するも、愛美はアイリの素直さに呆れるしかなかった。


「そもそも、スカートがめくれても大丈夫なんだろ」


「下にスパッツはいているから、大丈夫だよ」


 アイリはそう言いながら、スカートの裾をほんの少しだけ捲り上げスパッツ姿の太ももを見せるが、その仕草を目にした生徒は、隆輝も含め男女問わず顔を赤らめる。


「あれ、どうかした?」


 皆の反応に対して、当のアイリだけは、自分のやった事の影響を理解出来ていない様子であった。


 歓迎会は各文化部が研究発表をはじめ、寸劇や演奏など、それなりに時間を使ってアピールする為、運動部が先にステージに上がる。その為、生徒会の役員がトランシーバーで連絡を取り合い案内を出すが、各委員会のアピールタイムが終わったらしく、運動部の人間が、生徒会の指示に従って順番に控え室から退出していく。


「運動部って、どれ位あるんだ?」


 隆輝は現生徒会副会長でもある成美に尋ねる。


「ウチを入れると11ね」


「昨年出来た学校の割にはあるんだな」


「元々、そういう方面に力を入れているみたいだから。それにラクロスは全国行ったし、サッカーも地区大会ではベスト8まで行ったから」


「ウチには、アイリというスーパースターがいるし」


「私の場合は小さい頃から向こうでやっていたから、日本の皆よりも始めた年齢が早いだけだよ」


 まるで自分の事の様に誇らしげな愛美を横目に見ながら、アイリはそう言って微笑む。


「なるほどな」


「あと、個人なら水泳や陸上、それに柔道や新体操でも入賞している生徒もいるから」


 隆輝は香織からそのような話は聞いていたものの、改めて聞かされると、それが本当の事だと実感した。


 やがて教室に残っていた運動部の面々も、全員が体育館に移動して、自分達の出番を待っている。


 隆輝はステージの裾から様子を窺っていたが、サッカー部が登壇すると女子の歓声が大きくなり、その中で晋一はリフティングを見せて館内を沸かせていた。

 そしてラクロス部が登壇すると場内は終始ざわついてが、実際にゴールを置いてアイリのシュートを見せると、その迫力に場内は静まり返ってしまったが、その直後何故か黄色い歓声が館内に響き渡った。


 その後、新設の運動部である剣道部の番がやってくると、隆輝と成美が登壇する。打ち合わせの通りマイクを持って説明するのは成美だが、現生徒会副会長でもある彼女は流石に場慣れしている事もありスムーズに進行していく。


「今日は稽古の一つである掛かり稽古を見てもらおうと思います。これは竹刀を打ち込む動作を試合に近い形で行うものです」


 会場が静まり返った中、隆輝と成美は面をかぶると正面に向かって一礼をし、互いに向かい合い一礼をする。

 そして蹲踞そんきょの姿勢で竹刀を互いに向けゆっくり立ち上がると、互いに間合いを計り始めた。


 今回は成美が打ち込み役であり、隆輝は打ち込ませはするものの、試合同様の動きをするというのが打ち合わせで決めた事であったが、隆輝は久々の面越しに見る相手に気分が高揚している事に気付く。

 そして成美が打ち込むのを最初は静かに受けていたが、次第に隆輝の掛け声は館内に響き渡り、それに感化された成美も同様に声が大きくなり、2人の動きは激しさを増していく。

 その頃には新入生全員が何も反応する事も出来ず、ひたすら2人の動きを追うだけになっていた。


「け、剣道部ありがとうございました」


 そのアナウンスで隆輝達は時間が来た事に気が付くと、再び互いに礼をし、そして正面に礼をしてステージから降りていった。

 その間も館内は静まり返っていたが、1人の女子生徒の拍手をきっかけに、ようやく館内は拍手に包まれるが、そのきっかけを作った女子生徒こそが晶であった。


「随分と激しかったわね」


 舞台袖に現れた香織の言葉に、2人は笑顔を見せる。


「飛沢君の気合に、まんまと引き込まれました」


「悪い、何か久々に相手がいたせいか、気分が昂ぶって」


「まあ、どうで出るかしらね」


 香織の言葉に2人は不思議そうに香織を見る。


「むしろ、驚かせ過ぎたかも知れないわよ」


 その言葉に、静まり返っていた館内を思い出し2人とも苦笑する。

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