テレビジョンから
彼女は脳はブラウン管の形をしている。
といっても、考える機能がそこに備わっているというだけで、その呼ばれ方は便宜上らしい。
博物館近くのパイナップル畑の跡地、そこから出土した型を造成したもので昔に流行っていたテレビに頭部が似ている。
テレビは東南アジアの最も暑かった地域で栽培されたといわれる植物性ロボットだ。
真空管を守る硬質化した膜は手のひらでこするとコシュコシュとよい響きがする。
「割れると、わたしあなたがきらいになるかもね」
ぼくの頭を膝の上に乗せて穏やかに言っても、空気は弛緩している。
クラシックなカーが並ぶ車庫の窓から落ち着いた陽が伸びて、ホコリを際立たせていた。
彼女は展示品なのに誰も動くのを止めないから、こうして留めるしかない。
ここの係員である威厳もない。
威厳など始めからあるだろうか、ない。
「この歌、ラジオが死んだ歌だったかしら」
赤いイセッタの上に置いたMP33550336プレーヤーから流れている音楽、古書店で無造作にアルバムを選び取り込んだものだ。
ノイズが酷いのでどんな詩なのかはよくわからないけれど、誰かが殺されたにしては海をひと泳ぎしたくなる曲だね。
「ざ、ざー……ざざざ……」
ぼくがそう言うと彼女は、たぶん笑っているような砂嵐をした。
「ざ、ざざざ……。死んだ。死にました。わたしはわたしは、テレビジョン」
車庫に彼女の砂嵐が広がっていた。
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