75話 お手紙
「オプションいらねーよ!」
突然、死んでいた姉御が叫びました。
目を見開いて、ギチギチ体を動かしながら咳き込んでいます。苦労しながら上半身を起こすと、大きく深呼吸しました。
「い、痛ぇ、体中痛ぇー! 硬ぇ!」
大福ねずみは姉御の手から転げ落ち、驚いてひっくり返りました。
そのまま、言葉が出て来ません。
「おらー馬鹿ねずみ! 戻ったぞ」
丸まってひっくり返ったまま、しっぽを摘まれて持ち上げられました。
嬉しそうな姉御の笑顔が、大福ねずみの眼前に見えました。
「…………ぞ、ゾンビに食われる~~!」
言葉が見つからず、とりあえず不謹慎な叫びを口走ってしまうと、食わねーよと、手に優しく握りこまれました。
「あぁー、バンデラスは、いい男だった」
姉御が、体の節々をぐるぐる回してほぐしながら、声を上げて笑いました。
ひと際大きく体を動かしたとき、いつもの姉御の匂いが漂ってきて……それをとらえた大福ねずみの頭の中は、はじかれたように色々な何かでいっぱいになりました。そして、その何かは、温かい涙となってあふれ出したのでした。
「姉御、姉御、姉御~~~~」
大福ねずみは、ただただ、何度も姉御と呼びました。本当は、死ななくて良かったとか、悲しかったとか、自分も死んでしまいたかったとか、ごめんなさい、とか、沢山言いたいことはあったのですが、上手く言葉になりません。
そして姉御は、多くを語りませんでした。ごり押しで暴言を吐きまくっただけだったので、実際、ろくに語ることがありません。
「もう大丈夫だぞ。神様が、俺とお前、一緒に過ごしてみろってさ! 罰も終わりだってさ!」
ただそう言って、姉御は笑うのでした。
大福ねずみは、戻った姉御の目が赤かったので、どんな攻防があったのか少し想像が出来ました。きっと、大泣きして、必死で自分を助けようとしてくれたのです。罰を帳消しにするとかそういうことでは無く、悲しんでいる自分の為に、泣いて怒って戻ろうとしてくれたに違いありません。オイラの罪に巻き込まれて死んだのに、オイラのことを思って必死になってくれたんだ。だから姉御は、何も言わない。そう解っていたのです。
照れ臭くて、本当のことは話さないだろう。
ただ、オイラの為に、戻って来てくれたんだってことは解る。
だからオイラも、何も聞かない。
「おぉぅ……生き返ったら、お前が付けた額の傷から流血しだしたぞ、こら」
「パンナコッタ~!」
怒られた大福ねずみは、逃げずに姉御の胸に跳び込みました。
その夜、大福ねずみは、姉御に手紙を書きました。
ワード文書で書きました。
姉御へ
オイラは、姉御といると、楽しい。
オイラは、姉御とずっと一緒にいたい。
姉御といるとき、オイラはいつでもやりたいようにしてきた。
でも、思い通りになることは少なかった。沢山姉御に怒られた。それでも、
やりたいように、言いたいことを言ってきた。それってすごいよね。
何でそんな風に出来たんだろう。それは、姉御が、オイラを絶対嫌わないっ
て知ってたから。
何で知ってたかって言うと、オイラも絶対姉御を嫌わないって思ってたか
ら。
いつからそうなったのかは、分からないけど。
良いことすらろくに出来なかったオイラだけど、それでもいいような気がし
ます。
オイラに、世のため人のためなんて、似合わないし。白い没個性な体も欲し
くないしね。
姉御が生きて戻ってくれて、良かった。嬉しかった。本当に、本当に。
ずっと一緒にいようね。それで、長い人生の本当のお別れが来たら、そのと
きは、姉御が先に行くといい。姉御が、悲しい思いをするのは嫌だもんね。
オイラは、姉御にだけ飛び切り良いことをしてあげたいと思いながら、一緒
に生きて行きたいの。
これって、もしかして、ずっと二人で考えてたあれじゃないの?
大福より
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