38話 オイラと姉御

「姉御の馬鹿、馬鹿、馬鹿~~~~!!」

大福ねずみは、叫びました。思い起こせば数時間前、姉御が寝ている間に、ギャルズに攫われてしまったのでした。情けなくも、バッグに入れられ、チャックでイチコロでした。

 お持ち帰りに気づいた大福ねずみは、「ヘールプ!」と、何度も叫びましたが、姉御には気付いてもらえなかったようです。


「外で熟睡かよ、あの女~!」

 いくら悪口を言っても、怒って言い返して来る姉御はいません。

 連れてこられたのは、ギャルズのアパート部屋のようです。大福ねずみをいじり飽きたギャルズは、酒を飲んで騒いでいて、二人でも十分かしましい状態でした。可愛い巨乳ギャルズの女の子らしい大騒ぎは、華やかな声のトーンが愛らしくて、なかなか楽しげに感じられました。大福ねずみは当初、こんな女の子ちゃん達との生活を望んでいた自分を思い出しました。運命のいたずらで、男前で乱暴な女と暮らすことになってしまったけれど、自分が求めていたのはこの華やかさなのだから、このままここで暮らすのも悪くないなぁ~と思いました。


 しかし、それは本心ではありません。こんな風に、姉御に酷な考えを巡らしてしまうのは、姉御に対してちょっと気になることがあったからなのです。それは、大福ねずみが攫われそうになった時に、わざと姉御が助けなかったのじゃないかという疑惑です。

 自分が調子に乗って、ギャルズにデレデレしているのを見て、怒って捨ててしまったのかもしれない。ヘルプの叫びは届いていたのに、狸寝入りで無視したのかもしれない。

「……まぁ、ろくなもんじゃないからね~オイラ」

 もともと、一緒にいなければならない関係でもないので、面倒ならば、お互い簡単に離れてしまえばすむことです。


「……姉御とは、ずいぶん一緒にいたなぁ~」

大福ねずみは、姉御がこれでいいなら、自分としてもどうでもいいし、言葉が通じない人間に飼われるとしてもどうにかなるだろうと思いました。巨乳ギャルな分だけ、しゃべれないことを差し引いても、飼い主としては東村よりはマシでした。

「もう、良いことするヒントも色々見つけたしね~。後は自分で頑張れるや~」

 姉御と一緒に、良いことをするためのヒントを模索したことを思い出します。そして、さっきからしゃべってもしゃべっても、誰も答えてくれないのでつまらなくなってしまい、ギャルズの会話に耳を傾けました。


「つーか、マジうざいんだけど、あの男」

「普通、告んないよねー身の程知れっつーの!」

中々に、黒い発言が飛び交っていました。これでは、たとえしゃべれたとしても、楽しく参加出来そうにありません。

 ふと、ギャルズが、大福ねずみを撫でました。ろくでもない会話をしていても、小動物に優しい女の子ちゃんなんだなぁ~と思いました。


「姉御は、すぐ怒るし、乱暴だし、女らしくないし、Aカップだし~」

 暴言に怒る人は、誰もいませんでした。酷いことを言ったのに、優しく撫でられ続けていることに違和感がありました。その感覚はどんどん大きくなり、自分がただのねずみになってしまうような不安と嫌悪感に襲われました。


「姉御だって、撫でてくれたことあるし、オイラ相手に本気で遊ぶし、本気でしゃべるし、本気で考えてくれるし、本気で怒るし」

大福ねずみは夢中で口を開きましたが、言葉が途切れてしまうと、途端に悲しくなってしまうのでした。

「……姉御は、オイラがいないほうがいいのかな」

本人に聞いてみなければ、分かりません。

 大福ねずみは、姉御の所に帰りたいと思いました。自分でもよく分からないけれど、姉御にこのまま会えないのは嫌でした。


 姉御と大福ねずみは、毎日毎日、下らないことで遊んだり言い合いをしたりして過ごしてきました。扱いが酷いのはお互いさまで、それでも嫌いにならなかったし、嫌われもしなかった。そういえば、姉御が攫われた時、自分は姉御を助け出すことに必死になったのだった。姉御がどうにかされるんじゃないかと、心配で仕方

がなかった。あんなに、何度も何度も、助けてくれと叫んだことってあったっけ。相手が、あんなに怖かったりょうちゃんでも、姉御を助けるために乗りこなしたんだ。


 思い出してみると、あまりの馬鹿らしさ加減に、口元に笑みが湧いて来ました。そして、もしかして姉御は、あの時の自分のような気持になっているのではあるまいかと思い至りました。

「……オイラは、姉御がいないのは嫌だ。だから、姉御もそう思って心配してるかも。オイラ達は、お互いが居ない方が良いなんて考えないよ~」

口に出してみると、一気に悲しい気持ちが吹き飛んで、心が決まりました。


「どうにかして帰ろう! 心配してる姉御が可哀想だから~!」

「夜だから、寝て起きてから~」

強い決意は、速攻で夜に阻まれました。


 ふと、姉御が東村に頼んで、タケミの高性能な目で、自分のことを探し出してくれるかもしれないという思いが頭をよぎります。自分は、何もせず待っているだけでいいのではないかと。何せ、何も出来ないネズミなのだから。

「違う、オイラが戻りたいんだから、オイラが自分で何かするんだ。姉御が可哀想だから!」

「ま、もう一回、ギャルズのおっぱい揉んで、ひと眠りしてから~」


更に固まった決意は、今度はギャルズのおっぱいに阻まれました。

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