宙、二秒?
「それ……マンガの台詞だよ?」
「お、そうなのか? それは知らなかったな……俺はてっきり歴史上の剣豪か、名のある武道家の言葉だとばっかり……」
「ろっくんって、なにげに厨二病だよねぇ」
「宙、二秒?」
ハハハハ、と柚恵は笑った。笑って、収め、目を伏せてから、間六彦を真っ直ぐに見た。
「……弥生ちゃんの苦しみは、弥生ちゃんにしかわからない。でも、ろっくんならそんなの怒りのぱわーで、ぶっ飛ばせるかもしれないの。スーパーなんたらのノリでね。だから、お願いします」
「頭を下げられても、ほとんど意味は掴めんがな……」
間六彦は苦笑いを浮かべ、アッサムの紅茶を啜った。ほとんど紅茶の味の違いは、わからなかった。まるで女心のようだった。それに柚恵は楽しそうに、笑った。
「てかさ、単なる嫉妬じゃないの?」
そんなやり取りを、舞奈は一言で断じてしまった。単細胞ってイイな、と間六彦はかつてない悪態を心中ついた。この辺もかつてと比べ、変わっている点かもしれない。
「嫉妬ってぇ、どういう意味で言ってるのかなぁ?」
柚恵はすっかり元の調子に戻っていた。自分の前だけは取り繕わないのは、信頼の証と見ていいのだろうか。
舞奈は自分用に作ったルートビアをちびちび口に運んでいた。以前試させたもらったが、あの独特の後味はとても好きにはなれそうになかった。
「ん、うま……それで、」
「まいにゃあ、まえはルートビア苦手じゃなかったっけぇ?」
「へ、そだっけ? んー……よく覚えてないっ」
てへぺろ、炸裂だった。こうして見ると、この少女は様々なことから無差別に影響を受けているようだった。その結果できたのがこのキャラ、なんだか不憫だった。
「ふたりして可哀想なひとを見る目で見ないでっ!?」
気づけば生暖かい視線になっていた、自重自重。
「いや、すまんすまん。話を進めてくれ」
「え? う、うん……なんかやりづらいな……でもまぁいいや、それで、弥生は嫉妬してるだけなんじゃないの? って言ってるわけ」
「なににぃ?」
「ウチに」
キシッ、と空間が軋みをあげた。まさかここでそうくるとは、間六彦も考えてはいなかった。柚恵も微動だにしない。舞奈おそるべしの感を間六彦は強めた。
「……そ、そうでしょ?」
「俺にそれを訊くのか?」
「え、えと……柚恵?」
「――どうしてぇ、そう思うのぉ?」
「だ、だって……間はウチのファンでぇ、それで弥生は間が好きだからぁ、そんなウチに弥生は嫉妬しててぇ……」
「へー」「ふむ」
ふたり、舞奈の言葉に納得の相槌を打った。なるほど、そういう理屈で言えばあながちあさっての方向を向いているわけでも無さそうだった。
「え……な、なにその返事?」
「いや……なんでも恋愛方向に結びつけるのは昨今の女子らしくて悪くはないと思うが……」
「えぇ、違うのぉ?」
柚恵が驚いていた。
その反応に、間六彦も驚いた。
「……なにを言っている、ゆえりん?」
「気づいてなかったとはぁ、言わせないよぉ?」
したり顔だった。
間六彦は一瞬、思考を失った。
「……なんのことか、」
「惚けたってぇ、だぁめ」
惚けている。わからないフリをしている。この――自分が?
舞奈は楽しそうなもの見つけちゃったといった感じに、破顔した。
「え? なに間ひょっとしてウチへの気持ちに気づいてな――」「それでろっくん、自分の弱さに気づいたところでぇ、どうしよっかぁ?」「遮らないで!」
――弱さ、だと?
認められない。認めたくはない。認めたくなかった――が、そのやり取りは既に酒田Gとの真夜中の決闘で決着がついていた。
所詮自分など、未熟で若輩者だ。
「……俺は正直、自分に自信がない」
「うん」「嘘ッ!?」
「特に他人に認められる自分というものを、正直想像するのが難しい」
「うん、わかってるよぉ」「え、マジ? 間、マジなの!?」
「お前の目から見て、弥生は本当に俺のことが、その――」
「たぶん、そうだと思うよぉ」「まーでも間からウチに伝わってくる、敬愛の念のほうがすごいけどねー」
『…………』
正直、真面目な話をしているところだから舞奈の横槍が邪魔で邪魔で仕方なかった。しかし邪険にするとまた泣かれたりと面倒だしと、悩ましかった。とにかく柚恵からの言葉だけを汲み取るよう努力する。
「……俺は、弥生からの言葉にどう応えればいいんだ?」
「それはぁ、愛し合うふたりの問題だよぉ」「まー間はウチへの愛情が強過ぎるから……ってアレ? 愛し合う二人って!?」
「愛し合う、だって?」
寝耳に水だった。自分が弥生のことを――愛してるだって?
「そ、そうなのか……俺が、弥生を……」「ねーねー! 間はウチのファンなんだよね? 弥生じゃなくて、ウチの……って、聞いてよ! ちょっ無視しないで……泣くよ? ウチ、泣いちゃうよ? いいの? それでもいい――」
『っさい!!』
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