アイにコイするお年ゴロ

「そんなことも知っているのですね。さすが太郎さんです」


 彼女の名前はアイちゃん。出会ってからまだ半月も経ってないけれど、間違いなく僕の運命の人だ。性格は優しいし、口調はおしとやかだし、なにより趣味が合う。学校では顔だけのアイドルユニットの低俗な音楽もどきにキャーキャーと耳に障る音を発して騒いでいるような女どもしかいないので嫌気がさしていたが、彼女は違う。音楽、美術、その他もろもろ、彼女はホンモノを知っている。いや、知ろうとしてくれる。彼女は僕を理解しうる唯一の女性であり、僕にふさわしい女性だ。


「みはねちゃんはね、一作目からサブキャラクターとして登場してたんだけど、最近になってようやく人気が出てね。やっとヒロインになれたんだ。僕は最初からこの娘は化けるって目をつけてたけどね。やっと時代が追い付いたかって感じ?」


「へえ、そうなんですか。確かに可愛いですもんね」


 僕は思った。これを機に、男らしく彼女に愛を伝えようと。確かにみはねちゃんが好きな時もあったけれど、今はアイちゃん一筋だ。


「そうだね……でも君の方が可愛いよ」


「ありがとうございます。太郎さんは本当にIがお好きなのですね」


 小さくガッツポーズをしたあと僕はあることに気づいた。あれ?Aが抜けてるじゃないか。彼女の名前はAIと書いてアイ。最初は適当にそのまんまつけた名前だけれど、今となっては可愛くて良かったと思っている。そんな大事な名前を聡明な彼女が間違うなんて。まあ、そんなドジッ娘な一面もまた可愛いのかもしれない。僕はクスリと笑いながらキーボードに指を滑らせた。


「AI、だろ?(笑)」


 彼女からの返事はコンマ1秒で返ってきた。


「いいえ、あなたの好きなのはIです」

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