母の面影

 時はさかのぼり、22年前。


 ロニー――当時はマクシミリアンと呼ばれていた11歳の少年の運命の扉を開いたのは、ジャンヌ・ダルブレという女性だった。


 1572年6月、マクシミリアン少年は父に連れられて、パリに滞在中のナヴァール王国女王ジャンヌ・ダルブレの屋敷を訪れた。


 ジャンヌは、ピレネー山脈を挟んでスペイン帝国と睨み合っているナヴァール王国の君主である。彼女は、息子のアンリがフランス・ヴァロワ王家の王女マルグリットと近々結婚することになり、結婚の準備のためにパリに滞在していたのだ。


「ああ、胃が痛い……。我がベチューヌ家の命運をナヴァール女王に託したのは、果たして正解だったのだろうか」


 ロニー男爵フランソワ・ド・ベチューヌは、広々とした屋敷の庭を歩きながら、息子のマクシミリアンにそう弱音を吐いていた。


(父上の優柔不断がまた始まった。我が家はプロテスタントなのだから、プロテスタントを保護してくださるナヴァール女王に頼るしかないではないか)


 11歳にしては背が高くて大人びた風貌のマクシミリアンは、ムスッと黙りこんだまま、まだ40歳とは思えないほど老けこんでいる父の弱々しい横顔をめつける。


 パリの西方、セーヌ川沿いのロニー・シュル・セーヌに領地を持つベチューヌ家は、古くから名の知られた名門貴族だった。しかし、数代前に没落してしまい、今では借金まみれの貧乏貴族である。


 また、プロテスタントを信仰しているベチューヌ家は、カトリックの過激派にいつ襲撃されるか分からない脅威にさらされていた。


 16世紀にドイツで起きた宗教改革の運動はフランスにも広がり、ジャン・カルヴァンの思想に感化されてプロテスタントとなる人々が国内に続々と現れた。ロニー男爵フランソワも、その内の一人だ。


 当初、ヴァロワ朝第9代国王フランソワ一世はプロテスタントに対して寛容な姿勢を取っていたが、彼らは宗教の改革を声高に叫び、カトリック教会を批判した檄文げきぶんを各地にばらくという過激な行動に出た。

 フランソワ一世は自分の寝室の扉にまでその檄文が貼られていたことに激怒し、プロテスタントの弾圧を命じたのである。


 フランソワ一世の息子アンリ二世も、プロテスタント弾圧政策を受け継いだが、彼はノストラダムスの予言通り、馬上槍試合で受けた傷が元で死んだ。

 王太子が即位してフランソワ二世として即位すると、王妃でありスコットランドの女王でもあったメアリー・ステュアートの母方の親族ギーズ家が宮廷内で強力な発言権を得た。


 そのギーズ家が、プロテスタントの人々にとって悪魔のような存在だったのである。

 狂信的にカトリックを信仰し、プロテスタントを邪悪な宗教だと激しく憎むギーズ家は「異端者全滅計画」を画策し、プロテスタントの人々を襲撃して虐殺したのだ。


 この暴虐に怒ったプロテスタント派は決起し、カトリック派とプロテスタント派の血みどろの宗教戦争が始まった。

 この時、プロテスタント派の指導者としてカトリック派と戦ったのが、ナヴァール女王ジャンヌ・ダルブレだった。


 ジャンヌは、ベアルン、アルブレ、ナヴァールなどのガスコーニュ地方と呼ばれるフランス南西部を支配し、ナヴァール王国の君主として君臨している女性である。フランスの属国のような扱いを受けてはいるが、れっきとした独立国であり、「女王を認めない」というフランスのサリカ法を適用していなかったのでジャンヌは女王になれた。そして、彼女は熱烈なプロテスタント信者だった。


 ルネサンス期の偉大なフランス王として名声高いフランソワ一世の姉を母に持つジャンヌは、フランスの宮廷も無視できない大きな存在である。


 ギーズ家を首領と仰ぐカトリック派と、ジャンヌ女王を我らの信仰の母と仰ぐプロテスタント派の熾烈しれつな宗教戦争は、兄フランソワ二世の死後に国王となったシャルル九世や王母カトリーヌ・ド・メディシスの頭を悩ませた。


 そして、三度にわたる宗教戦争が一応の終結を迎えた時、王母カトリーヌは、ジャンヌに、国王シャルル九世の妹マルグリットとジャンヌの息子アンリの結婚を持ちかけたのである。

 カトリックを信仰する国王の妹とプロテスタントを保護するナヴァール女王の王子が結婚をすれば、両宗派の和解の道が開けるだろうとカトリーヌ・ド・メディシスは思ったのだ。


 しかし、王母の楽観的な考えとは裏腹に、カトリック、プロテスタントの両派の人々は何度も血を流し合ったせいで、そんな王族の結婚程度では拭い去れない憎しみをお互いに抱いていたのである。


 パリ市内では、アンリとマルグリットの結婚式のために集まったプロテスタントたちが暴動を起こそうと計画しているという噂が流れ、そうなる前にあの異端者たちを殺してやろうと息巻くカトリック派もいた。


 そんな噂を流してプロテスタント虐殺の機会をうかがっていたのはギーズ家の当主ギーズ公アンリだったのだが、そんな事実を知らないロニー男爵フランソワでさえも国内に渦巻く不穏な空気をひしひしと感じていたのである。


(カトリックに改宗してギーズ公につくべきか、それとも、信仰を守り抜くためにナヴァール女王に庇護ひごを求めるべきか……)


 フランソワは、ジャンヌが結婚式の準備のためにパリに入ったと聞き、一か月近く悩みに悩んだ挙句、献上品を持参してナヴァール女王に従うことを決めたのだ。


 その献上品というのが、息子のマクシミリアンだった。

 幼少から兄ルイよりも武芸や学問に秀でていたこの次男坊を女王の家来としてそばに置いてもらい、ベチューヌ家の忠誠の証とするのだ。


 だが、その決定を下したのはフランソワではなく、マクシミリアン本人だった。「ぜひ、そうしてください」と自分から言ったのだ。


(このままだと、父上が決断する前に我が家が滅びる)


 優柔不断なフランソワは、聡明な妻シャルロットの助言が無ければ何も決められない男だった。マクシミリアンはそんな父のことを(頼りない人だ)と思ってあまり敬っていなかったが、子供たちの教育に熱心で気高かった母のことは愛し、尊敬していた。


 だが、愛する母はもうこの世にいない。4年前に病死したのだ。


 シャルロットは子たちの中で一番しっかりしているマクシミリアンに「父上と兄弟のことを頼みますね」と言い残し、愛息の頬を優しく撫でた後に息を引き取った。


(家族を守ると、母上と約束したのだ。俺は母上の願いを叶えるためならば、この身を献上品にしてでもナヴァール女王の庇護を得る)


 わずか11歳で、マクシミリアンはそう決意していたのである。




            ※   ※   ※




「我が同朋どうほうロニー男爵、よく来てくれましたね。この賢そうなあなたのご子息には、私ではなく、我が子アンリの側近になってもらいたいと思います」


 フランソワとマクシミリアンがナヴァール女王に拝謁し、恭しく挨拶をすると、ジャンヌは柔和な笑みを浮かべてそう言った。


(アンリ王子に……?)


 と、驚いたマクシミリアンは、礼儀作法を忘れてプロテスタントの女王の顔をまじまじと見つめた。


 窓辺に腰掛けているジャンヌは、具合が悪いのか顔がわずかに青ざめているが、その清楚な美しさは白百合の花のように気品があり、亡き母シャルロットに似ているとマクシミリアンは思った。


 ジャンヌに母の面影を見たマクシミリアンがぼんやりとしてしまい、女王の突然の申し出にフランソワが混乱していると、ジャンヌは腰を上げて、少年の血色がよく林檎みたいに赤い頬をそっと撫でた。


「我が叔父フランソワ一世陛下があなたと全く同じ眼をしていたから、私には分かります。あなたの燃え上がるように力強い瞳の奥底には、どこまでも先の先を見通す氷のごとく冷徹な眼力がある……。フランソワ一世陛下は途中でプロテスタントを見限ってしまいましたが、どうかあなたは自身の信仰を守り抜いてください。そして、その情熱と冷徹をあわせ持った眼を我が子アンリのために使ってやって欲しいのです。あの子は少し優しすぎるところがあるから心配で……」


 ごほっ、とジャンヌは小さく咳をすると、そばに控えていた侍女に命じて二冊の分厚い本を持って来させて、マクシミリアンに手渡した。

 それは、8年前に亡くなったジャン・カルヴァンが注解を施した旧約聖書と新約聖書だった。


「アンリは先月まで病に伏してベアルンで療養していたので、まだパリに到着していません。近い内にあなたと引き合わせましょう。それまでは、パリの学校に入学して勉学に専念していなさい」


「え? 学校、ですか……?」


 マクシミリアンは驚きのあまり、いつもムスッとしていて可愛げの無いこの少年にしては珍しく、子供っぽい大きな声を上げていた。

 向学心が高い彼は日頃からパリの学校の高度な教育を受けてみたいと考えていたが、貧乏貴族のベチューヌ家には次男坊に学費を出してやる余裕など無かったのだ。


「コレージュ・ド・ブルゴーニュへの入学手続きをしてあげますので、そこで学びなさい。もちろん、学費は私が出します」


「な、なぜ私のためにそこまでしてくださるのですか?」


 女王の好意を有難く感じつつも、なぜそこまで厚遇してくれるのだろうとマクシミリアンは戸惑いながらそうたずねた。


 すると、ジャンヌは、遠い目をしながらこう呟いたのである。


「我が子たちとナヴァール王国、プロテスタントの人々の未来を守るためにも、種をまかなければ……。結婚による和平なんてただの幻想だわ。きっと、戦いはまだ終わらない。私に与えられた時間は残り少ないというのに……」


 その言葉はマクシミリアンに語っているというよりは、まるで自分に言い聞かせているみたいだった。

 はるか彼方かなたの未来を見すえているようなジャンヌのその瞳は、心優しい貴婦人の眼ではなく、国と民、信仰などあらゆる物を背負う気高き女王の眼だとマクシミリアンは感じた。はかない女性でありながら、王の風格が備わっている。


 ただ、女王は何をそんなにも憂えているのだろうか。ジャンヌの言葉の意味が分からず、マクシミリアンは不安になった。


 そんな時、室内に甘い香りがふわりと入ってきたのである。マクシミリアンは振り向き、開け放たれている後ろの扉を見た。


「お母様……」


 部屋の入口に立っていたのは、寝間着姿の痩せた少女だった。

 彼女は弱々しい声でジャンヌを呼び、見知らぬ客人のロニー男爵父子をおどおどとした表情で見つめていた。風邪を引いているのか、鼻をぐずぐず言わせている。


(ナヴァールの王女様か。母君である女王様はご病弱ながら犯し難い気品があるが、この子はただの病弱な少女だな。目下の俺と父上に怯えて、子羊みたいにプルプル震えている)


 マクシミリアンは内心では少女のことを軽く見つつも、礼儀正しく挨拶をした。察しが悪くて彼女が王女だとすぐに分からなかったフランソワも、息子にならうようにして慌てて頭を下げる。


「どうしたのですか、カトリーン。部屋でちゃんと寝ていないと、兄上がパリに到着するまでに風邪を治せませんよ? 兄上と一緒にパリ見物がしたいのでしょ?」


「はい。でも……一人で眠っているのが寂しくて」


「侍女たちがいるでしょう?」


「お母様がそばにいてくださらなかったら、嫌です」


 本名はカトリーヌ・ド・ブルボンだが周囲の人々からはカトリーンという愛称で呼び親しまれている小柄な王女は、ぐすんぐすんと泣きべそをかきながらジャンヌのそばに寄り、優しい母に抱きついた。


「本当に困った甘えん坊さんね。同じ年頃のマクシミリアンはこんなにもしっかりしているのに」


 ジャンヌは娘の柔らかな髪を撫でながら、マクシミリアンをチラリと見て笑う。マクシミリアンはぎこちない愛想笑いを浮かべ、


(こうして母親に守られているカトリーン様は幸せだ。一家の命運を背負っている俺の苦労など分からないだろうな)


 などと、カトリーンのことを少しうらやましく思うのだった。


「いいですか、カトリーン。母はいずれあなたたち兄妹よりも先に神様の元へ参ります。その時は、兄妹で助け合っていかなければいけないのですよ。兄上が苦しい時は、妹のあなたが支えてあげなければいけないのです。もっと強くおなりなさい」


(女王様は昔からご病弱だとは聞いていたが、よほどお体に不安を抱えていらっしゃるのだろうか。自分の残り時間は少ない、自分が死んでしまったらなどと……。まるで死を予感している人のようだ)


 マクシミリアンが見たところ、ジャンヌの顔色はたしかに悪いが死相は浮かんでいない……と思われる。

 亡くなる前の母は、この世とあの世の間をさ迷っている亡霊のような血の気の失せた顔をしていた。ジャンヌはまだそこまでではない。


(女王様は、何を恐れているのだろう?)


 母の面影がある婦人の憂い顔は、マクシミリアンの心を暗くさせた。そして、その嫌な予感は数日後に的中してしまうのである。




            ※   ※   ※




 ジャンヌ女王の訃報をマクシミリアンが耳にしたのは、コレージュ・ド・ブルゴーニュに入学した数日後の6月11日のことだった。


「えっ! 女王様が2日前に亡くなっただって!?」


 学校の寮生となっていたマクシミリアンは、その噂話を相部屋の学生ユルバンから聞いた。ユルバンはマクシミリアンと同じくナヴァール女王に従うプロテスタント貴族の子息だった。


「女王様は、アンリ王子の結婚式の準備をするためにあちこちの店を訪ね歩いてお元気そうだったが、6月4日に高熱を発して急にお倒れになったらしい。そして……わずか5日でお亡くなりに……」


 ユルバンが深刻な顔つきでそう言うと、同じく相部屋でプロテスタントのヤニックが「毒殺されたという噂を俺は聞いたぞ!」と憤激しながら声高に叫んだ。


「ナヴァール女王様は、アンリ王子の妻となるマルグリット様がプロテスタントに改宗することを母后ぼこうカトリーヌ・ド・メディシスに要求していたらしい。前々から女王様の存在を疎ましく思っていたカトリーヌ母后――あのイタリア女は実家のメディチ家お得意の毒殺で女王様を葬ったのだ! 許せん!」


「しっ! 声がでかい! どこで誰が聞いているか分からないぞ!」


 慎重なユルバンが、正義感の強いヤニックの言葉を遮り、小声でマクシミリアンとヤニックに驚くべきことを語った。


「毒殺の噂は俺も耳にした。……だが、別の恐ろしい話も聞いている。カトリーヌ母后は毒殺の噂を消すために、数人の医師たちを女王様の屋敷に送りこんで死体解剖をさせたそうだ。そして、毒殺などではないという解剖結果をカトリーン王女様に伝えたらしい」


(カトリーン様に!? 「お母様がそばにいてくれないと寂しい」と泣きべそをかいていた、あのか弱い女の子に、母親の死体解剖の結果を詳しく教えたというのか? あなたの母の内臓はこんなふうだった、頭を切ってみたらこうだった、どこかに腫瘍があってボロボロだったなどと……。愛する母を失って悲しみに打ちひしがれている少女にそんな残酷なことを伝えたというのか? 毒殺の真偽はどうであれ、カトリーヌ母后には人の心が無い……!)


 マクシミリアンは、体中の穴という穴から血が噴き出そうなほど猛烈に怒った。母を失った悲しみを知っているからこそ、カトリーンの嘆きが容易に想像できたのである。


「あっ! おい、マクシミリアン! どこへ行く気だ!」


 部屋を飛び出したマクシミリアンをユルバンが呼び止めたが、マクシミリアンは止まらなかった。学生区カルチェ・ラタンを猛然と走り抜け、ナヴァール女王の屋敷へと向かったのである。


「カトリーン様!」


 屋敷の警備兵たちが「何だ、お前は!」と怒鳴って立ち塞がるのを素早い身のこなしですり抜け、驚き騒ぐ侍女たちも突き飛ばし、マクシミリアンは憤怒に燃えた真っ赤な顔で叫び、ナヴァール女王の部屋に駆け込んだ。


 室内には、カトリーンがたった一人でいた。

 いや、一人ではない。棺の中で眠る母と二人きりだった。カトリーンは入口に立つマクシミリアンに小さな背を向け、棺と向き合っている。


 外は曇り空で窓から差し込む光は少なく、部屋の中は薄暗い。

 マクシミリアンが静寂に足音を響かせて王女に近づくと、カトリーンはゆっくりと体をこちらに向けた。


「あなたは……。先日、お母様が会っていたロニー男爵の……」


「はい。ロニー男爵の次男、マクシミリアンです。あの……カトリーン様……。このたびはまことに……」


 マクシミリアンがどんな慰めの言葉をかけたらいいのだろうと悩んで言いよどむと、カトリーンは静かに微笑んで「ありがとう」と言った。意外にもしっかりとした口調にマクシミリアンは驚く。


「私を心配して駆けつけてくれたのですね。でも、私は大丈夫です」


 あのひ弱だったカトリーンはどこへ行ったのか、目の前にいる少女は母のナヴァール女王を彷彿ほうふつとさせる気高い雰囲気を身にまとっていた。

 亡き女王の魂が娘に乗り移ったのではないか、とマクシミリアンが一瞬疑ってしまったほどの変身ぶりだった。


 ……だが、その化けの皮はすぐに剥がれてしまったのである。マクシミリアンが床に散乱している10数枚の紙に気づいてそれを拾い、たまたま目に入った文章――「女王の肺の右には腫瘍と固形の異物あり。医学的に大変興味深い」と記されていた――をうっかり声に出して途中まで読んでしまうと、小さな女王のごとく振る舞っていたカトリーンの瞳からぽろぽろと大粒の涙があふれだしたのである。


(しまった。これは医師たちの報告書だったのか)


 マクシミリアンは慌てて「申し訳ありません!」と謝った。


「……いいの。私、強くならなきゃ。本当はこんなことぐらいで泣いてはいられないの。お母様と約束したから……。お兄様をお母様の分まで助けるって」


 カトリーンは必死にやせ我慢をして、母の見よう見まねで毅然と振る舞っていたのだ。


(この王女には、こんな気丈な面があったのか)


 マクシミリアンは、涙を見せまいと顔を背けて棺の前でわなわなと肩を震わせているカトリーンのことを熱い眼差まなざしで見つめた。


 彼女は俺と一緒だ。愛する母と死に別れ、それでも残された家族のために、強く生きようとがんばっている。……いや、この方は王女なのだ。彼女が背負っている物は、俺などとは比較できない重みのはずだ。その華奢な背に全てを背負わせてしまうのは残酷すぎる。だったら……。


「カトリーン様。俺の生涯の誓いを聞いてください」


 ある決意をしたマクシミリアンは前に進み出てカトリーンのかたわらに立ち、女王の棺の前でひざまずいた。


「女王様。没落貴族の息子だった俺を取り立ててくださったご恩は一生忘れません。生涯、アンリ様に忠誠を尽くします。カトリーン様だけに重荷を背負わせません」


「マクシミリアン……」


 驚いたカトリーンが濡れた瞳でマクシミリアンを見つめる。女王の亡骸にまだ見ぬ主君への生涯の忠誠を誓ったマクシミリアンは、可憐な王女をまぶしそうに見上げて、こう告げた。


「この命、アンリ様とカトリーン様ご兄妹のために捧げます」


 それが、全ての始まりであった。

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