第112話
神はあんぐりと口を開けた。
「はぁ? なんじゃと……」
どうやらさすがに神であってもこれは予想できなかったらしいな。
考えてもみろ。神に“頭”で勝負するなどどだい無理。自殺行為。奥名先輩にさえ「出来の悪い」と言われる俺だぞ。100人と勝負して過半数に負ける自信がある。
“体力”はどうか。これまで俺が運動神経に優れるという記述があったか? 人にも勝てないやつに神の鼻をあかせるわけがない。
だから奇策しかない。神でさえ想定できないことで勝負する以外に明日の太陽は拝めない。
「ルールは簡単。どちらかがギブアップするか続行不能と判定されるまで行う。ただし神は“奇跡の力”とやらは使わないこと。これまでも人に化けて地上に現れてたんだろ。どうせギリシアのゼウスみたいに女性を口説いたりしてたんだろ。ならその“人の姿”で俺と勝負しろ。まさか『できない』なんてことはないよな」
ひと息に言い切った。そして再びやつを
「よかろう。だが肝心の食い物はどうするのじゃ」
おっと応じやがったか。まあいい。俺は久梨亜のほうを見た。
「久梨亜、お前が料理を作れ」
「えっ」
「お前は魔力で色々出せるよな。なら材料と調理器具を出してここで作るんだ。料理そのものを出すんじゃない。お前の立場は中立。勝負のための料理を作るのに、お前ほどうってつけのやつはいないんだ」
久梨亜の目は驚きで見開かれていた。
「わ、分かった。で、どんな料理を作ればいいんだ」
「そうだな。量を作るのが難しくないやつがいいからな……」
少し考えた。そして言った。
「そうだ、カレーだ。カレーを作れ。お得意のスパイスがたっぷり入ったやつを頼む」
俺は久梨亜の目をじっと見た。数秒の間があった。
「分かった、作ってやる。スパイスがたっぷり入ったやつ、だな」
久梨亜が立ち上がった。神のやつが笑い声をあげた。
「ホッホッホッ。カレーなら知っておるぞ。辛さでわしをひれ伏させようというのじゃな。だがわしは神。ありとあらゆる時代や地域の物を食っておる。どんなにスパイスを
俺はまたしても神のやつを
「なら火と水はあっしのほうで用意しましょう。配下に炎や水を操る悪魔がいますんで」
たちまちのうちに簡単なキッチンが姿を現した。カレーの材料も積み上げられた。メフィストフェレス配下の悪魔が鍋に炎を吹きかける。久梨亜が手際よくそこへ具材を放り込む。別の釜ではご飯が炊かれてる。
やがて強烈な刺激が辺りに
長テーブルと椅子が用意された。俺と神が少し離れて席に着く。背後から調理の音がする。
目の前にカレーが出された。赤い。真っ赤。刺激で涙が出そうだ。
と、ここでなぜか神のやつが文句をつけだした。
「ちょっと待て。皿を交換してもらおう」
「なんだと」
「この料理はあの女悪魔が作った。あの者、一度は貴様への情に流されたやつじゃからな」
神が久梨亜をうさんくさそうに見る。そしてやつは皿を俺のと取っ替えやがった。やめろと言う間もなかった。
「じゃあ、あっしのかけ声で始めますぜ。よろしいな」
メフィストフェレスが両者を交互に見た。
「では、始め!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます