第90話 奥名先輩の独白(モノローグ) その7

 私と瀬納君だけじゃなく美砂ちゃんや久梨亜も誘って出かけます。行き先は日本でも最大級の某テーマパーク。ランドやシーじゃなくスタジオの方。日にちは3月最終週の火曜。学校関係は春休み。当然激混み。でもそれが狙い。


 パークに着いたらまず、“万一はぐれた場合の集合場所”を決めておきます。どこがいいかな。目立つところがいいな。サメが吊されているところかな。で、それが決まったら一緒に次のことも決めておきます。もしみんなとはぐれたとわかったらあちこち探さずその場所へ行くこと。そこに着いたら残りのみんなが来るまでその場所から動かないこと。ここまでが仕込み。


 4人でパークを回ります。私は彼をしっかり確保。当然美砂ちゃんと久梨亜がもうひとつのペアに。これが仕掛けその1。


 頃合いを見計らってわざと美砂ちゃんたちとはぐれます。これが仕掛けその2。できるだけ激混みのエリアが狙い目。わざとはぐれても怪しまれることがありませんから。もちろん彼はしっかり確保。ただし彼にははぐれたと気づかせません。気づかれたら集合場所に行くのは私たちのほうに。それではダメなんです。


 私たちとはぐれたと知った美砂ちゃんペアは集合場所へ。スマホで連絡取れるのでどこかで落ち合おうと言われるかもしれませんが「決めたから」と押し切ります。彼女らはそこへ移動。そして事前に決めた通りそこを動かない。これで仕掛けは完成。私と彼はふたりっきりに。後はパーク内の飲食コーナーにでも行けば完璧。邪魔を気にすることなくじっくり話ができます。土日を避けたのは彼と話すスペースまでなくなると困るから。


 えっ? どうしてわざわざ美砂ちゃんと久梨亜も誘うのか、ですって? もちろん理由があります。それは“彼女らのいる場所を確定させておくため”です。


 もし私と彼だけで出かけると知ったら彼女らはどうするでしょうか。最悪の場合、こっそり後をつけられるかもしれません。どこかの物陰ものかげから私たちのようすや会話をのぞかれるかもしれません。それを避けたいんです。


 そのためには彼女らのいる場所をこちらが完全に把握する必要があります。それには彼女らの動きをこちらがコントロールして、さらにはこちらが事前に選んだポイントに誘導するのが最善。もちろん彼女らは自分たちが誘導されたとは夢にも思わないでしょう。ずいぶん待たせることになるでしょうが、仕方ありません。


 さあ、もう来週です。本当に久しぶりですね、仕事以外でこんなにワクワクするのなんて。そしていよいよ“あの日”以来続いていた“おかしな私”とさよならできるのですから。


 この文は“決意表明”です。ですから今はシュレッダーにはかけません。人にも見せません。無事成功したあかつきには胸を張ってシュレッダーにかけます。そうなると確信しています。


 もう寝ます。おやすみなさい。その日になればきっとみんなうまくいくでしょう。そう信じることにします。

 おやすみなさい。


 ==========


 奥名若葉はここまで書くと便せんを取り上げた。そして満足そうにうなずくと、それを読むこともなく机の中にしまい込んだ。机を閉じると同時に彼女はひと言「よしっ!」と言った。

 そして彼女はベッドに潜り込むと、すべての心配事から解放されたかのようにすぐに眠りへと落ちていった。机の上には4枚のチケットが置かれてあった。

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