第88話 奥名先輩の独白(モノローグ) その5
もう既にその日の午前中、私は瀬納君の姿を無意識のうちに探していました。見つけてホッとした自分がいました。そしてビックリしました。それから落ち込みました。
だって午前中ですよ。朝彼に挨拶してからまだ数時間も
その後は前日までと一緒。なにも変わらなかった。昼休みにいつものように彼が昼食を一緒に食べないかって誘いに来たとき、彼の後ろに美砂ちゃんと久梨亜がいるのを見てちょっとイラッとしちゃいました。すみません、嘘です。ちょっとじゃなくて“かなり”です。もちろん断りましたよ。断る理由はなににしたんだっけ。たくさんありすぎてどれだかもう思い出せません。
それでもこの時点ではそれほど心配してはいませんでした。だって前日にシュレッダーしたばかりだから。それまで文をバラバラにしたら、どんな問題でもそのうちやがて自然に解決してしまっていたから。瀬納君のことは今日は解決しなかったかもしれないけれど、これもきっとこれまでの他の問題と同じように、そのうちやがて自然に解決する。そう思っていました。
でもだめでした。次の日も、またその次の日も、なにも変わりませんでした。
彼はお昼に私を誘いに来るだけじゃなく、10時や15時のおやつ
月が替わって3月になってもなにも変わりませんでした。そのころになるとさすがに私もおかしいと感じ始めました。このままではダメだって思い始めました。でもどうしたらいいんでしょう。だって私はもう自分ではどうしようもないって思ったからあの文を書いたんです。自分にできることはもうなにもない、後は神か仏か人知を超えたなにかにすがるしかないって思ったからこそあの文を書いたんです。でも事態はなにも変わらない。
そんなときにまた瀬納君が急病で会社を休んだんです。またなにか朝に悪いものを食べたんだそうです。なにを食べたんでしょうか。もし前回と同じものなら学習していないんでしょうか。幸いこのときは入院までには至らなかったみたいですけれど。
でもやっぱり私、その知らせを聞いてドキドキしちゃった。すぐに飛んで行きたかった。おかしいですよね。彼のことはなんとも思ってないはずなのに。
そこで私ようやく気づいたんです。なんでもっと早く気づかなかったんでしょうか。本当はもっと早く気づくべきだったのに。
事態がなにも変わらないのは私に出来ることがまだあるからなんじゃないかって。私は自分が散々努力したって思っていたけれどそれは間違っていたんじゃないかって。だから文をシュレッダーにかけても事態がなにも変わらなかったんじゃないかって。
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