テミスちゃんとマリアちゃんとレアちゃんとイアちゃんと美恵ちゃんとミランダさん
「ちょっとぉ! モデルさん達は動かないで下さい!」
アタシは全員に注意をした。
「そんな事を言われたって……こんな多人数で、くっついていたら無理よ!」
ミエが抗議の声をあげた。
「罰なんだから真面目にやってよ!?」
「あたしとレアちゃんだけの筈だったのに……なんで、こんな多人数になっているのよ!?」
テッシーが、お姉ちゃんとミエに言い渡した罰は、裸婦画のモデルだった。
自室に飾りたいらしい。
全員どん引きしていた。
……完全な裸じゃなくて水着だよ? ……と、途中から言い訳を付け加えていたが、絶対に嘘だ。
でも……それなら……と、お姉ちゃんが受けてしまった。
ミエは目を丸くして、お姉ちゃんを見ていた。
……わたしも混ぜて貰っていい? ……と何故か、お母さんが仲間に入ってきた。
まだ自信がある内に自分の綺麗な姿を残したいらしい。
流されるままにミエも承諾してしまった。
そしてイアから話を聞いたマリアやイア本人も混ぜて欲しいと、頼みに来たのだ。
全員の都合が良い時に大きな部屋に集まって貰って、アタシは五人の水着姿を描いている。
ちょこちょこと動くモデル達に、アタシは少しキレそうになっていた。
──もしかして、これはアタシへの罰なんじゃないの?
そう思うと、テッシーがSだと言っていたミエの話も本気で納得する様になっていった。
「それにしても、やっぱり若いっていいわね。みんな肌が、すべすべで……」
「あの、すみません……ミランダさん? あたしのパンツの中に手を突っ込んで尻を撫でるの止めて貰ってもいいですか?」
「お母様も大きくて柔らかくて気持ちいいです」
「マリアの枕も気持ちいいぞ?」
「ちょっとイアちゃん! そんな所に頭を乗せないでっ!?」
「うるさあぁーいっ! 動くなっ! 静かにしろっ!」
アタシが一喝すると、全員ピタリと止まった。
五人には広くて綺麗な絨毯の上で座りながら、くっついてポーズをとって貰っている。
そうでなければ一枚の絵に収まる様に描けそうも無いからだ。
お母さんを中心に左右に美恵と、お姉ちゃんがいる。
お姉ちゃんは、お母さんの胸に、もたれ掛かる様にして頭を乗せていた。
お母さんの手は、今は美恵の肩に置かれて彼女を抱き寄せている。
正座している、お母さんの膝に、マリアが腰を当てて寄り掛かかる様に足を伸ばして座り、イアがマリアの胸に頭を乗せて同じ様に、しかし反対方向へと足を伸ばしていた。
ようやくモデルさん達が大人しくなってくれたので、アタシは下描きの作業に入った。
「ねえ……訊いてもいい?」
ミエが唇だけを動かしてアタシに尋ねてきた。
「なあに?」
アタシは目と手を忙しく動かしながら答える。
「もう漫画は描かないの?」
「描くよ?」
手を休めずにアタシは、即答した。
「でも今度は普通の話を描いてみるつもりよ?」
「そっか……少し残念だな……」
アタシの返事にミエは、そう言って微笑んだ。
「漫画って、何の話ですか?」
「マリアは、まだ十七歳なんだから知らなくていいよ」
マリアの疑問に、イアが答える。
十八歳未満は読めない様にするというシュリテ国王の決めた事に、テッシーは倣う事にした。
そして印刷と製本を手伝ってくれた人達の中で十八歳未満に渡されたアタシの二作品の漫画本達は、その娘達が十八歳になる日まで国が預かる事になった。
その対象者の中には、マナもいた。
アタシは彼女のくれたファンレターに感激した事を伝えて、彼女の年齢でも楽しく読める作品を描く事を約束した。
マナは喜んで……心待ちにしています……と答えてくれた。
「次の作品はマリアにも読める様に描くから期待しててね?」
アタシは手を休めずに微笑んで伝える。
「うわあ……楽しみにしていますね?」
彼女は動いてしまった。
「そこ! 喜ぶのはいいけど、動かないで!?」
マリアは慌てて元のポーズに戻った。
「もちろん、ミエが楽しみにしているジャンルにも何れ、またチャレンジするよ?」
「べ、別に……そのジャンルだけが好きな訳じゃ……」
「動かないで?」
「……はーい」
テッシーは、この国に生きる人達には娯楽が必要だと言った。
でもアタシは、娯楽とは少し違う自分にとって必要なものを見つけた。
それは生きがいだった。
絵を描いて、みんなに喜んで貰う。
それがアタシの生きがい……。
今回の件で、その事が良く分かった。
「よし! 下描き終わり!」
アタシは木炭を置いた。
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