勅使河原くんと三人目の魔姫 Ⅴ

 万策ばんさく尽きた。


 あれから僕はイアと、時々マリアとで一生懸命に頭をひねったけれど、張子のアイデア以上の方法が思いつかなかった。


 今は気分転換の休憩も兼ねてイアのゴーレムで遊んでいる。

「こんな感じでいいのか?」

 イアが尋ねてくる。

「うん、いい感じだよ。」

 僕が答えた。

「うわぁ!かわいいですね!」

 マリアはテーブルを見て感嘆の声をあげた。


 テーブルの上にはイアの作ったゴーレムが、今度は五体ほど乗っている。

 ゴーレム達は華麗なダンスを披露していた。

 振り付けは僕の世界の…アニメの…エンディングなんだけど…二人には秘密だ!

 マリアも、うっとりとして観ているけれど、イアも自分が操っているからなのか、何だか楽しそうにしている。

 僕は…二人とも女の子の顔をしているなあ…と、マリアとイアの横顔を見ながら思った。


「それにしても、イアは凄いね。いったい何体までゴーレムを同時に操れるの?」

 僕は視線をテーブルの上のゴーレム達に戻しながら尋ねた。


 答えが返ってこない。


 再びイアに顔を向けると彼女は、ぼんやりしていたけれど、やがて僕の方に顔を向けると、こう言った。

「そういえば、数えた事ないや。」


 イアの回答から数分後。

 今度はテーブルの上ではなく、床の絨毯の上が凄い事になっていた。

 百体はいるゴーレム達が絨毯の上を思い思いに動いている。

「凄いね!これもイアちゃんが全部動かしているの?」

 マリアが絨毯を見渡しながら、感心したように言った。

「いや、これだけ数が多いと俯瞰的ふかんてきに指示を出さざるを得ないから、ある程度の命令の範囲に沿って自律的に動いてもらってる。」

「…?」

 イアの答えを理解できないマリアは、両手の人差し指で頭を挟んだ。

「人形達に適当に遊べって、お願いをして、勝手に遊んでもらっているって事だよ。」

 僕は笑顔でマリアに補足して説明した。

 僕が笑顔なのは、マリアが微笑ましいというのも理由だけど、もう笑っちゃうしかない状態だったというのもある。

 僕はイアに…他の鍛冶職人達も一度に複数のゴーレム達を同時に操れるのか?…と、尋ねた。

 彼女は…これだけの数で動作情報をコアに記憶させて命令するのでは無く、直接コントロール出来るのは、この国では自分だけだろう…と答えた。

 …自分では気が付いていないんだ。

 イアは笑っちゃうくらい才能に恵まれている。

 ただ自分が欲しかった才能にだけ、手が届かなかっただけなんだ…。

 僕は…本当に何とかしてあげたいな…と、改めて思った。


「イアのゴーレムって障壁の強度が、どれくらいあって力強さは、どのくらいあるの?」

「それが自分にも良く分らないんだ。」

 …分らない?

「どういう事なの?」

 僕は天井を見上げながらイアに尋ねた。

 今度はゴーレムで組み体操のピラミッドを作ってみた。

 頂上で起立している一体は、天井に届きそうな高さの位置にいる。

 イアには棚にある全てのゴーレムを出して貰った。

 全てのゴーレムを使って広い部屋の中に作った巨大な四角錐は、壮観な眺めだった。

「ピッ!ピッ!」

 マリアは楽しそうに笛を吹いている。

 マリアが吹く笛の音に合わせてゴーレム達は、首を左右に傾けたり顔を上げたりしていた。

 この巨大ピラミッドの全体の重量は、相当なものだ。

 それなのに一番下のゴーレム達は、潰れることも無く上を支え続けている。

 その事を不思議に思えた僕は、このゴーレムの強度とパワーが気になってイアに先ほどの質問をしてみたのだけれど…。

 イアも同じ様に天井近くの頂点の一体を見上げながら答えてくれる。

「親父の話だとオレの作るコア独特の能力らしいんだけど、コア同士を近づけさせると共鳴反応を起こして、魔力が増幅されるらしいんだ。」

「つまり?」

「オレのゴーレムは一体だけの障壁の強度や力強さは大した事が無いけど、接している状態だと、どんどん硬くなって力強くなって素早く動ける様になるらしい。」

 僕は一人で飛ぶと遅いけど手足を繋いで四人で飛ぶと速くなるという、古い漫画のヒーローを思い出した。


 …しかし、なるほどなぁ…。


「イアが小さなコアしか作れない事と、その特殊なコアの性質に何か因果関係があるのかな?」

 僕の問いかけにイアは、肩をすくめて答える。

「…さてね。オレは、そんな特性を持ったコアよりも大きなコアを作れる才能が欲しかったけどな…。」

「イア…。」

 僕に向けられた彼女の背中は、とても寂しそうだった。

 その彼女の寂しさは、大きなゴーレムを作れない事から来る感情なのだろうか?

 僕には何か引っ掛かる感じがした。

 僕は彼女に問いかける。

「でも君は、この小さなゴーレム達の事が大好きなんだろう?」

 イアは目を丸くして僕の方を振り向くと、頬を赤く染めた。

 彼女の目に少しだけ涙が滲んでいるのは、悔しさのせいだろうか?

「そりゃそうさ…。大会の規定さえ無かったら…こいつらと一緒に出場したい…。大きなゴーレムを作れるに越した事はないけど、まだオレが小さな子供の頃から作り始めて慣れ親しんで来た…家族みたいなゴーレム達なんだよ…。」

 そう言うとイアは、今にも泣きそうな表情をしながら鼻をすすった。


 そんなイアを僕が少しだけ共感しながら見ていると、一緒に彼女の事を見ていたマリアが僕の上着の袖を引っ張った。

「あの…マサタカさん…。」

「あ、ごめん。なに?マリア…。」

 僕はマリアの方を見て、何か言いたそうな彼女の発言を促した。

 マリアはゴーレム達のピラミッドを指して尋ねる。

「これを、このまま出場させる訳には、いかないんですか?」


 …はい?


 僕とイアは、目が点になった。

「いやいやいやいや、無理でしょ?」

 そう答える僕に対してマリアは、不思議そうに尋ねる。

「何故ですか?五メートルは完全に超えていると思いますよ?」

 …確かに、この高さなら規定はクリアしてるだろうけど…。

「この状態で、どうやって相手のゴーレムと闘うのさ?」

 僕からの質問にマリアは、少し考えると真面目な顔をして答える。

「下のゴーレムさん達に四つん這いのままで速く走ってもらって、相手に突進するんです。」

 …。

 …なるほど、その発想は無かった。

 …ちょっとした戦車だな…。

「マリア〜、そんなん相手にかわされたら、それでオシマイだろうが?」

 イアは呆れ気味にマリアのアイデアを否定した。

 …相手が躱したら、どうすればいいかな?

 …戦車だったら砲塔を回転させて砲身を相手に向けて弾を撃つだろうな…。

「躱されたらゴーレムを相手に向けて一体投げつけるとか?」

「そりゃあ、それなら当てられるだろうけど…一体になった途端に障壁の力が弱まるから、大したダメージは与えられないぜ?」

 …うーん、そうだなぁ…。

「いっその事、繋がったまま相手に向かって飛ばそう。」

「…どう言う事だ?」

「ゴーレムをむちの様に連結させて、頂上から振り回して相手を攻撃するんだ。」

 僕からの提案を聞いてイアは、腕を組んで考え込んでしまった。

「うーん…アイデアとしちゃ悪くないけど、戦車対人形だとゴーレム同士の闘いとしちゃ、やっぱり見栄えが良くは無いなぁ…。」

「えー?今更そこを気にするの?」

 イアは真剣な顔をして答える。

「そらそうよ。この闘技大会は鍛治職人達の技術向上促進の面と同時に、この国の重要な観光資源でもあるんだから、観客が喜ぶ様な闘いを見せないと…。」

「他の地方からも見物客が来るんだ?」

「ユピテル国だけじゃないぜ?外国からも大勢来るのさ。何日も前から泊まっている客だっている。去年は他の国からの参加者だっていたんだ。しかもドワーフ族じゃないんだぜ?」

 僕はマリアの出したアイデアによるピラミッド戦車と人型のゴーレムが闘っている姿を想像した。

 個人的には悪くないけど、確かに一般受けはしない気がした。

 僕も、お客さんも、巨人同士のぶつかり合いを見たいであろう事は、まず間違いない。


 …人型の戦車…。


 僕はキャタピラーで動くアニメのメカの事を思い出した。

 …ピラミッドよりはマシかな?

 …両腕を鞭にして…。

 …いや待てよ?

 …いっその事…。

「ねえ?イア?」

「なんだよ?」

「試したい事があるんだけど、いいかな?」


 僕はイアにゴーレム達の組体操で円柱を作って貰うことにした。

 出来上がっていく様子を見ながら僕は、イアに確認を取る。

「大会の規定だと参加できるゴーレムの数やコアの数に制限は無いんだよね?」

「まぁ複数のゴーレムを同時にリアルタイムで操れる奴が、いなかったからなぁ。…おい、まさか本気でマリアの戦車ゴーレムで出場させる気じゃないだろうな?」

 イアは不安そうな顔を僕に向ける。

「まぁ、見ててよ。」

 出来上がった円柱を手で触る。

「僕が今触った所のゴーレム達の肘と膝を曲げてみて?」

 僕が手を離してからイアが頷くと、円柱は僕の方へと傾いた。

「…ミミズさんみたいで気持ち悪いです。」

 マリアが円柱の動きの感想を漏らす。

「じゃ次は、こちら側を元に戻すと同時に反対側のゴーレム達を同じ様に縮ませてみて?」

 今度は円柱が反対側に、ぐにょん、といった感じで折れ曲がった。

「…これが、なんなんだ?」

 イアは不思議そうに僕の方を見た。

 僕は自分の片手を挙げる。

「つまりは、コレさ。」

 そして肘を曲げると、出来た力こぶを指差した。

 マリアは訳が分からないかのように首を横に傾ける。

 でも、イアは驚いた後に、とびっきりの笑顔を見せてくれた。


 その時、イアの部屋の扉がノックされて開くと、レアとテミス、それにヨアヒムさんが入ってきた。

「テッシー!まだ、ここにいたんだ?宿を取ってきたよ。大きな部屋で五人が一緒に寝られるベッドまであるの。夕飯の時刻まで後少しだし荷物を持って、みんなで宿屋に行こう?」

 僕はテミスの話を聞いて、また、あの夜みたいに全員で話が出来るのは楽しそうだと思ったけれど…。

「もう、そんな時間なんだ…。じゃあ、いい所だけど一旦夕飯を食べて休憩したら、また、ここに戻ってくるよ。」

 僕はイアに、そう話した。

「ほ、本当か?助かるよ…。光明は見えてきたけど、テシの考えている事を一人で設計から操作の試験までやるのは、流石に自信無いし…。」

「乗りかかった船だ。最後まで徹夜してでも面倒見るよ。」

「あ、ありがとう…。」

 イアは涙ぐんで目尻を指で拭った。

「じゃあマリア、それに皆、悪いけど僕は今夜、この部屋に泊りがけでイアの作業を手伝う事にするから…。」

 僕は四人に向かって、そう話した。


「だ、駄目ですよ?!そんなの!」

 マリアが大きな声で反対した。

 …ええっ?

「どうしてさ?」

「そうだよ!なんで駄目なんだよ?!」

 僕とイアは、マリアに尋ねた。

「だ、だって…イアちゃんは女の子なんですよ?女の子の部屋に若い男性が泊まるだなんて…王様が許可する筈がありません。」


 …イアが女の子?

 …いったいマリアは、何を言って…。

 …。


「「忘れてた!」」


 僕とイアは同時に叫んだ。

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