68話 主人公覚醒!(ちょっとだけ)

どれぐらいの時間が経過したのだろう。

 三度目の休憩までは覚えていた。そのあとの記憶がない。

 目を開くと真っ暗だった。洞窟か?


 ゼツペさんの洞窟ではないな。形状が明らかに違う。

 確かめようにも体が動かない。目を開けるのさえ億劫だ。


 再度眠ることにした。


――――


 次に目が覚めるとだいぶ楽になっていた。

 暖かいと思ったら、俺の下半身には藁っぽい草がかけてあった。


 上半身を起こすと何か置いてあることに気づく。ホワイトベリーだ。


「ゼツペさんかな?」


 ありがたくいただくことにした。


 しかし……浮遊感は収まらないな。原因がわからない。酔ってるような気分だ。寝たら治るといいんだけど。

 ここはどこだ? 洞窟ではあるけどかなりでかい。


 『発光』を使うことにした。


「あれ……?」


 軽く『発光』を使ったのに異常に光った。

 ゼツペさんに教わって魔法上手くなったのかも。

 立ち上がって出口へ向かう事にした。


 寝ていた場所から突き当りを右に進むと出口が見えた、外は真っ暗だった。

 出口にさしかかった時。『ザザッ』


 隣には獣がいた。『発光』に照らされた顔は悪魔のようだった。


「う、うわぁぁ!! あ、あれ!?」


 よく見ると犬だった。灰色の毛並みの犬。昨日乗った犬だ。


「お、お前かよ!」

「ワン!」


 子供の頃、懐中電灯で顔を照らしてお化けゴッコをしたことがある。あんなの怖くなかった。

 だけど光に照らされた自分の顔よりデカイ獣が、横にいたらびっくらこきますよ。


「ここ、お前の家なのか?」

「ワンワン!」


 その通りってことらしい。やっと状況を把握できてきた。


「お前が倒れてた俺を、ここに連れてきてくれてのか?」

「ワン!」

「寝てる俺に藁みたいなのかけてくれて、ホワイトベリー持ってきてくれたのもお前か?」

「ワン!」

「そっか……そっか」


 涙が出た。ただ涙が出た。


「ワン?」

「あ~ありがとな。歳とると涙腺脆くてねぇ」


 優しくされると弱いんだよな。会って二日目なのにいいやつだなぁ。

 すり寄ってきてくれた犬に抱き着きながらナデナデした。


 しかし……泣いてまた眠くなってきたよ。


「ワン!」


 気を使ってくれたのか、家の中に案内してくれて寝床に直行した。


「ありがとねえ」


 なんか忘れている気がする。

 しかし迫る来る睡魔と、添い寝してくれる犬の安心感に負けた。

 本当に気持ちよく眠った。


――――


 目覚めると朝にだった。

 体調は微妙だけど、動けるレベルだ。


「ん~~」

「ワン」

「あ~おはよう~」

「ワンワン!」


 体を起こして、ストレッチをする。浮遊感は相変わらず。

 とりあえず日の光を浴びることにする。


「いや~気持ちいいなぁ~」

「ワン!」

「あ~、朝の日課忘れてたな」


 『着火』体操をサボっていたことに気づく。

 昨日は体調の悪さがピークだったからな。自然と魔法を使うことを避けていたみたいだ。


「ちょっと離れてな」

「ワン?」

「へへ、行くぞ!」


 『着火』魔法を使った。いつも通りの『ッポ』という音とともに申し訳なさそうな火が出た。


「あれ?」


 違和感がある。疲労感が無いことだ。


「おかしいな」


 二回目をやってみることにした。『ッポ』


「あれ??」


 魔力にまだ余裕がある。最大MPが上がった? なんで?

 死の淵を彷徨ったからかしら? そんなサイヤ人みたいなことで?


「ふ~む」

「ワン~」


 犬が心配して近寄ってきた。


「おお、大丈夫だよ! むしろ魔法が調子いいんだよね。

 あら? ダルさも無くなってきた気がする!」

「ワンワン!」


 魔法を使ってスッキリしたな。デトックスしたのかも。

 そして好調になった俺は悲願を達成したくなった。


「ごめんな、もう少し離れて見ててくれるか」

「ワン!」


 再度『着火』準備に取り掛かる。今回はブーストバージョンだ!


 設楽さんが考えた『治癒』を『再生』にレベルアップさせたみたいに、俺もやってみようと思う。

 名付けて……『ファイアボール』だ! 安易でもいい。出来たら最高にテンションが上がる。

 手ごろな岩壁にを前にする。火事になったら大変だからな。


 まずは両手に魔力を溜める。『着火』が発動しないギリギリまで溜めた。


―――― 

「発動状態にある魔法陣外輪に対して、直接別の手から魔力を注ぎ込みます!」

――――


「そんなこと言ってたな、よし」


 魔法陣にいつもの二倍ぐらいの魔力を籠める。

 これはイケる。初めて『着火』をした時と同じ気分だ。

 結果は違うぞ! 今度こそ『ファイアボール』を!!

 左手の魔法陣に、追加で右手から魔力を注ぎ込む。


「ファイアーボール!!」


 ボウン! という音がして火が出る。

 いつも以上に大きい火が出た。バレーボールぐらいのサイズだろうか。

 しかし火の玉は飛んでいかなかった。発動した場所で燃え上がり消えた。

 でも飛んで行ったものがある。


「おわー!」


 『ファイアボール?』発動の反動で俺が後ろに飛んだ。

 後ろの木に頭をぶつける。


「い、いでぇ!」


 優しい犬も、「この人間、頭大丈夫か?」て顔で見てる。

 で、でもパワーアップには成功した!

 『着火』の疲労感も減少したし、これは大きな進歩だ!


 ひと段落したので気づいた、お腹すいたことに。


「腹減ったなぁ、ゼ……、あ!!」


 忘れていたことに今気づいた。


「ゼツペさんに無事を報告してないやんけ!」


 俺は急いでゼツペさんのところに行くことにした。


「ご、ごめん! ゼツペさんのところに行きたいんだけど!」

「ワン??」

「これぐらいの爺さんだよ、リンクスと仲が良くて、え~っと」

「ワン!」


 わかってくれたみたいだ。そして……。


「これは乗れってことだな」


 犬は首を振り『乗れ』と合図する。

 デスマーチが再度始まるかもしれないと思いつつも不思議と安心感があった。


「よし」

「ワン!」


 跨ったらすぐに飛び出した。だが暴力的な速さではない。

 気を使ってゆっくり走ってくれてる。


(本当にいいやつだな。ちゃんと乗れるようになってやりたいな)


 振り落とされないように用心してしがみついていたけど、周りを見る余裕もあった。

 集落の中なんだろうけど、位置関係はよくわからない。


「ワォーーーン!」


 急に吠えた。目線の先にはゼツペさんがいた。

 俺の姿を見て、安堵と怒りが入り混じったような表情だった。


「ぜ、ゼツペさん、すいませんでした」

「ハァ~、全く心配させおって、そうかお前と一緒だったのか」

「倒れたところを助けてくれてみたいです」

「ふむ、体調は大丈夫なのか?」

「はい! 良くなりました!」

「そうか……ならええ」


 心配かけちゃった。申し訳ないな。


「あ……」

「どうした」

「お腹空きました」


 すいません。昨日はベリーしか食べてないもので。

 ゼツペさんがジトーっとした目で見てくる。呆れてるんですね、わかります。


「まぁええわ、池まで行こうかの」

「す、すいません、ははは」


 ゼツペさんの荷物を取りに行って池まで向かうことにした。


――――


 ゼツペさんは昼ごはんの準備を進めてくれている。

 久しぶりに俺はピコにエサをあげることにした。

 ピコはどんどん飛び方が上達している。なんなく投げた肉をキャッチしている。


「すげぇ! 上手くなったな!」

「ピピィ!」

「ワシが訓練しておるからの、この前はグースラットを仕留めたぞ」

「おおーすげぇ!」

「ピピィ!」


 ピコは誇らしげだ。俺も誇らしいよ。

 ピコは少し勇ましくなった。小さい傷もある。でも王都で見たストライクバードより断然かっこいいよ。

 親としては嬉しい限りだ。


「ゼツペさん」

「なんじゃ」

「ピコの件もそうですけど、色々ありがとうございます」

「なんじゃ急に、気持ち悪いの」

「いやーこんなに世話になっちゃってお礼を言うぐらいしかできないのは申し訳ないぐらいです。

 あ、何か役に立てることがあれば行ってくださいね!」

「ふん、アカイにやってもらえることなんてあるかのぉ」

「そ、そんなぁ〜」


 少し照れたゼツペさんは耳の裏を掻いた。


「あ、良かったらうちの村に遊びにきてくださいよ!

 おもてなししますよ、シマーさんも喜ぶと思いますし!」

「あいつはどうせ飲むだけじゃろ」

「まぁ、たしかに」

「ま、考えとこうかの」

「特製ラビットサンドをご馳走しますよ!」

「はっはっは、そりゃ楽しみじゃ」


 穏やかなランチタイムを満喫した。

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