44話 王都への道中 1日目
日が昇る前に村の東側に集合した。
村長、ディーンさん、リーダー、サブさん、そして俺と設楽さん。
そして専用バッグに入ったピコ。
見送りに先生とヨドさん。
設楽さんは起きれないと思っていたが大丈夫だった。ばかな……。
偽物かもしれない。
東側橋の前に馬車がスタンバイしていた。
初めて見るがすげぇ。馬でけぇ。
二メートルをゆうに超える栗毛の馬が2匹。
特筆すべきは脚だ
足回りが以上にフサフサしている。そして太くムキムキだ。
世紀末の強い人が乗ってそうな馬である。
荷台は飾りっ気のない感じ。窓もない。
今回は荷物と四人が乗るんだから結構窮屈だ。
「出発するぞ」
村長の掛け声で、村長とディーンさんが荷台の中に。
「は~デケェ」
「へへへ、こいつは特別でかいからな」
「そうなんですねぇ」
「あぁ、ここから王都までの道は結構厳しいからな。悪路もいける種類なんだよ」
「こんな脚で蹴られたら死にますよ」
「へへ、後ろには立つなよ。お、アカイチャン前乗るか?」
「え!」
「馬車は前二人、荷台に四人乗るのが基本だからな」
「ど、どうしようかな」
「いいじゃねぇか、ホレホレ」
俺は前の席に座らされた。
「ふぉっふぉ、様んなっとるぞ、坊」
「ははは、いいじゃないか」
「うおぉ、たけぇ……」
ヨドさんと先生にイジられた。
運転席は怖いけど、眺めがいい。
「ヨドさんもお見送りなんですね」
「まぁワシは道中の飯を持ってきただけじゃよ」
「そりゃありがたいな~。駅弁みたいだ!」
「いいなぁ、私も行きたくなってきたよ。なんてね」
先生すんません。俺頑張ります。
気を引き締めた。
「――シマー」
「おおっとすんません、いきますか」
痺れを切らした村長が荷台から顔を覗かせた。
「出発ー!」
「行ってきまーす!」
「気を付けてなーーー!」
これが、先生との最後の時間だとは誰も予想していなかった。
なんてね。
――――
巨大な二匹の馬に引かれ、馬車は進む。
進む先は平野なんだけど、それでも結構揺れる。
荷台の車輪に負担がかからないようにゆっくり走っている気がする。
「へへ、昼飯までのんびり行こうぜ」
「おお、結構長いですね」
「っま、こっちの席のほうが楽だぜ、荷台のほうが揺れるんだよな~」
「し、シタラさん大丈夫かな」
「――まぁなるようになるだろ、へへへ」
酔いそうだな、大丈夫だろうか。
「ま~今回はアカイチャンがいてよかったぜ」
「いつもは、村長が隣なんだけどよ~、喋ること無くてキッツいんだ」
「っぶ、だから俺を前にしたんですね」
「そゆこと~」
変化のない景色が続く。
「そっか、いつも二人なのに、四人だと荷台せまくなっちゃいますね」
「ま~二人の時は、その分荷物増えるだけだけどな」
「快適な旅って感じじゃないですね~」
「そりゃそ~よ」
「あ~たしか、今日は野宿なんですよね?」
「そそそ」
「危険じゃないんですか?」
「ん~まぁ大丈夫だろ、俺たちついてるし」
「や、野盗とかいないんですかね?」
「野盗ぅ~? バッカだなぁ、こんな年に2回しか通らないとこで襲うやつなんていねぇよ、ガハハ」
「そりゃそっか」
天候も安定してそうだし、トラブルはなさそうだな。
「まぁ、王都行きゃ~それなりに防衛しなきゃいかんけどな」
「へぇ~、結構治安悪いんですか?」
「ん~、そうでもねぇ」
「へ?」
「王都は罰則がキッツいからな。犯罪行為するのはリスキーすぎる。
昔は、ゴロツキとか多かったみたいだけどな、今はパッタリいなくなった」
「んじゃぁ、安心ですね」
「ん~、まぁそういう意味ではな」
「?」
「まぁ、いきゃぁわかるさ! ガハハ」
そこそこ快適な旅は続く、シマーさんは喋りやすくてええな~。
一時間そこらで、荷台側を覗いてみた。
グッタリしている設楽さんが見える。
また一時間後覗いてみる。
サブさんに膝枕されている。
その後は見ないことにした。
情けは人のためならず。
ん? 使い方間違ってるって指摘されたことがあったな。まいっか。
――――
本当に変わらない風景が続く。いや西側に山脈が見えるようになった。
近くの景色は変化がない。少し空気が乾燥している気がするぐらいか。
「よく道がわかりますね」
「酪農村行くときも同じ道だからな。
まぁ間違ったところで、川にぶつかるから大丈夫なんだよ」
地形がわからんけど、そんな感じなんだろう。
「酪農村は良くいくんですか?」
「殆ど行かないな」
「あれ、そうなんですか?」
「あそこは閉鎖的なんだよ、ウチの村よりもな」
「閉鎖的?」
「村全員が村長みたいな感じだ、ガハハ!」
「お、おぉ」
失礼だけど納得しちゃったぞ。
「村の中で完結しちまってるんだよなぁ。肉、小麦、野菜、そして鉱山が近くにある」
「へぇ」
「だから買い出しさえ、ほとんど行かないらしい。
塩も自分の村で作るって聞いたぞ」
ふ~む交易しづらい村だなぁ。
「この馬を買うときも結構大変だったんだ。なかなか売ってくれなくてよ」
あ、そういえば設楽さんが乗り物について知りたがってたな。
「乗り物って」
「ん?」
「馬以外にあるんですか?」
「馬以外か」
めずらしく真面目に考えてる。
「乗るだけなら、ダチョウか」
「ダチョウ」
「いや、あれはきついな。すさまじく揺れるらしい」
「ふーむ」
「あとはイヌか」
「い、イヌ?」
犬ぞりみたいな感じかな? ちょっとかっこいい気がする。
「王都を拠点にフラフラしてるじじいが乗ってる。
結構な有名人だ。とんでもなくデカイイヌを飼ってる」
「ど、どれぐらい」
「俺の身長ぐらいだよ」
「で、デカ!」
「ポニーぐらいあるしな、何回か見たけどすげぇ威圧感だぜ」
たしかにこの世界の動物はでかい。
現世より一回りでかいのがデフォルトって感じだ。
だけど、乗れる犬ってのは想定外だ。
「イヌか」
「へへ、まぁ運がよけりゃ会えるさ」
イヌに乗ってこの草原を駆け抜けれたらどれだけ素晴らしいだろう。
想像するだけでワクワクする。
この世界は非常に住みやすい。
ただ、ファンタジー要素が少ないと思ってしまう。
魔法が無ければ、現世の田舎暮らしをしてる気分になりそうだ。
その魔法でさえ……人間火打石状態だからな。
何か、もう一スパイスが欲しいと思うのは欲張りだろうか。
――――
「そ~ろそろ休憩か」
太陽が中天に差し掛かるころ休憩をとった。
「し、設楽さん」
衰弱した設楽さんが、サブさんに助けられ下りてきた。
「リーダー、少し長めに休憩とりましょう」
「あ~しゃ~ねえな」
小一時間ほど設楽さんの看病にあたる。
背中をさすり、お水を与える。
ご飯も食べれそうにないので、ベリーを少し食べさせた。
「ぅぅ~揺れる~」
「ピィィ」
こ、この子は本当に虚弱だな。
ピコも心配してるよ。
――――
休憩後の看病役は俺になった。
少しでも揺れないように、藁で枕を作り、濡れた手ぬぐいを頭にかけてあげた。
ずっと袖を掴まれてドキドキしたけど、衰弱しすぎでそれどころではなかった。
「ふん、弱っちいのう!」
村長の嫌味が車内に木霊した。
――――
夕刻に差掛った。
出発は五時ごろ、今は十七時ごろ。
おそらく十時間以上走っている。設楽さんはどんどん衰弱していく。
「どう!!」サブさんの声が聞こえ進行が止まった。
「野営地に着いたよ、大丈夫かい?」
「つ、ついたぁ……」
俺は設楽おばあちゃんを下してあげた。
「さって、準備すっか」
リーダーとサブさんは慣れた手つきで野営地を完成させた。
大きな木を利用した簡易テントを作成した。
火を起こして、たき火を作り、湯を沸かす。
「ほれ、ソテ茶だ」
いただいたお茶は、疲れた体に染み渡った。
設楽さんも夜風に当たり回復してきているようだ。
だけどこれをあと四日か。
結構きついけど頑張ろう。てか設楽さん死ぬんじゃ。
軽食を食べて各々寝る準備に入った。
――――
「アカイちゃん達は馬車で寝てくれるか?」
なるほど、テントは村長たちの寝床か。
無理言ってついてきてるんだし、異論はないです。
設楽さんが夜風に当たっている間に寝床を作った。
というか明日以降のことも考えて藁で枕を作成した。
何度か夜行バスで大阪-東京を行き来したことがあるけど、
頭を固定できると大分楽なんだよねぇ。
設楽さんは体も小さいし、大き目の枕があれば少しはマシになるのでは。
あとは……アロマ的な物が欲しいな。
安らぎの香り。
ソテ茶の香りはなかなか良かったな。
はて、ソテってなんじゃ?? ま、いっか。
俺はサブさんにソテ茶をそのまま貰った。
「これって」
「山で採れる草だね、王都では結構流行ってるみたいだよ」
「あ、売り物ですか?」
「気にしないでいいさ。重宝されるけど、そこまで重要な品じゃない」
「ありがとうございます」
ソテはなかなかいい香り。シダーウッドとかに近いかな?
ペパーミントとかもあるのかなぁ。
俺、結構好きなんだよな~。
馬車に戻ると、もう枕を使用していた。
「おかえり」
かわいいなコンチクショウ。
ソバ枕ならぬ、ソテ枕を提案したら、少し嗅いだ後に「入れて」って言われたよ。
そのまますぐ寝てしまった。ピコと一緒にぐっすり。
ちなみに枕の袋は、ミックから貰った袋です。
この袋が一番役に立ってる気がするぜ。
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