アズケブミ

 私は平凡な学生。記憶をストレージだけに記録するのが怖くなったのでログを残しています。誰が拾って読むのか分からないけど、人だけではどうにもならなくなった世界を助けてくれると嬉しいです。


 ストレージっていうのは人型の記憶媒体です。かなり高度な人工知能があって普通に会話したり一緒に生活したりできます。大体の人はその日の苦しい記憶をストレージに預けて、翌日必要な記憶だけを受け取るようにして使っています。

 男性型、女性型とも色んなモデルがあって最近は国から国民一人につき一体ずつ提供されるようになりました。

 それを私が使い始めた頃のことです。


 最近になってストレージを使わない人を見なくなりました。なんとなく嫌だからと使わずにいたのですが、そんな私も含め人にはこれが無いと生きていけない世界になってしまいました。

 そんな世界でも生きていくためにそれは作られたんだと思います。ただ、私は今もちゃんと生きていると言えるのでしょうか。


 私が初めて記憶を預けたのは大体一年前。ストレージと呼ばれてる外部知能に、嫌なことだったり忘れたくない記憶を預けて保存したり消去したりして使うようになりました。

 それは恐ろしく便利なものでした。嫌な記憶を消すような単純なことだけでなく、翌日まっさらな状態の自分へ何をするべきか、どういう人でいるべきかを好きに決められるのです。翌日の自分はその記憶に何の疑問もなく従うんですから。


「おはようあーちゃん。今日受け取る記憶ってある?」

「昨日のうちにそういった指示はありませんでしたよ」

「そっか、いつもありがとうね」

「いえいえ、こちらこそ大事な記憶をありがとうございます。また記憶のことなら何でも申し付け下さい」


 あーちゃんは私の大切なストレージです。私の不安や嫌な記憶を全て預けている唯一信頼できる友人でもあります。

 だけど、この記憶はあーちゃんが勝手に作った記憶なのかもしれないと思うことがあります。それでも思ったことを覚えているのはその日のうちで、明日にはそんなこと無かったことになるでしょう。記憶は無くても既視感に似た怖さは覚えているようで、時折あーちゃんを怖く感じます。


 私はいつの間にか、あーちゃんが何だったのか思い出せなくなってしまいました。


 リィンがまた変なものを拾っていた。ついこの前ゴミ山を漁る仕事をしたときの物だろうがリィンの拾い癖はいつになったら治るのだろうか。


「みんな自分が分からなくなっちゃうね」

「そうかな。なんにも疑問に思ってないんじゃない」

 自分を構成するものが何なのか、分かる人はいるだろうか。積み重ねた記憶だろうか、周囲からの認知だろうか、唯物もしくは唯心だろうか。

 少なくとも私はリィン無くして私だと言い張ることはできない。そもそも自分という個があるのかすら疑っていたりする。ちょうど合字のようなものじゃないだろうか。それぞれの個を保ちながら同時に総体を成すような。


何時か強く願ったがある。

明日、目覚めた時にもまた私でいることを。

忘れてしまったことがある。

昨日、何を強く願ったのかを。




Auf:ligature | 2017.04.11 - 11.23

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