トウタノウタ

 子どもが、降ってきた。


 リィンが無くしてしまった薬の補充のために、深い谷の底で薬草採集をしていた。

 私は自分ばっかりが真面目に薬の蕾を集めているじゃないかと不満を垂れていた。そのころリィンは谷底から見える空をぼうっと眺めていた。

 心ここにあらず。


「あぁあ」

「ん、どうした?」

それよ、と指差す方へ子供が落ちてきた。

 何をする間も無く、赤色が地面に張り付いた。声も出ずに虚しく。


「おはかつくる?かかわってみる?」

少し考えた。別に自分に関係のあることではないのだ。もしかするとこの子の望んだ事かもしれない。ただ……

「関わろうと思う。すこし前に何があったか見てくれる?」

「え、コルネットが決めてまきもどすのはキンキなんじゃなかったの?」

「子どもが死ぬのは嫌いなの」

じゃあ行ってきますと言って、それから。


 すこし前の谷の上に来た。

 いつでもコルネットはきびしい。自分で見て来てって言ったのに、こっちの時間でも手伝えーとかゆう。なんとか逃げ出してきたけど夕ごはん減らされないかなあ。


「イテ」

 民家が見えるあたりに子どもがいた。

「どうしたの?」

「……なんでもないやい」

 その子はおなかに手を当てて苦しそうにしていた。それにさっき、谷に落ちて来た子だと思う。さっきじゃない、あとでだ。

「歩けてないじゃん。どうしたの?」

「……しー」


 その子はわたしと草陰に隠れるようにして話してくれた。病気のこと、集落のこと、それとお母さんのこと。

 それによれば、この集落では歳が十になるまでに三度病気になると谷に落として処分するみたい。

 あの子は三度目の病気だったから隠れるように逃げ出した。それでも一人で生きていくことはできずに集落へ戻って来てしまった。そしてその子のお母さんすらも、病気と分かれば谷に落とすのだとゆう。


「ありがとリィン。なんとか飲み込めた。それでその子連れてきちゃったんだ?」

「うん。お腹すごいいたいって言ってる」

「……そうだな。いま治してやるからな」

 まあ、薬を飲ませればこの程度の腹痛は治るだろう。だけどそうか。運が悪かった。これはこの子を救うなんてことはできない。すぐに再発するだろう。不治の病だった。

「これで腹痛治るから、おうちに帰りな」

ありがとお姉さんと言ってゆっくりと帰っていった。

 まるで、生きていけると思ったように歩いて。


「せっかくがんばって見てきたのに助からなかったね」

「仕方ないんだよ。そういう決まりなんだ。……夕食は干し肉のスープにしようか」

「わかってるじゃん」


 その後数日の間薬草の採集をしていると、谷底に誰とも知らぬ骸が見つかった。あの子のだろう。私たちは小さい墓を立ててやった。

 あの子はまた病にかかる。そう分かっていたのだ。そしてあの集落でしか生きられないことも、あの集落に殺されることも。

「他の村に引き取ってくれる人がいればいいのに」

「また捨てられる。それが一番不憫だよ」


「リィンはさ、あの子の腹痛治そうとしたけど、どうして?」

「優しいことも少しはあるって伝えたかったから」

「……私はひとときの希望も持たせない方が良かったんじゃないかとも思うんだよ」

「コルネットも同じならたぶん薬あげてたとおもうよ?」

「まあ、ね」

 人間っぽいねと言ってからかわれた。


弱き者は捨ててゆけ。

でないと我らも捨てられる。

捨てることだけが我らを守る。

誰かを守る強さなど、人には持ち得ないのだから。




Auf:influence | 2017.02.01 - 04.10

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