リィン

 わたしはコルネット。いつからか旅をしている。

 勝手に"オルタネイト"と呼んでいる、変な能力をもつ子供を生かしたり殺したりしている。物騒に聞こえると思うけど、なんでも救えはしない。


 何人かのオルタネイトを経て、また次へと一人歩いている。しかし今度の子は今までの特異とはかけ離れている。変だ。噂を耳にした時点で既に会っているようなものだった。


 噂の内容はこうだ。

 夜の街はずれで、ある盗賊が少女を見つけた。裸足で歩くそれはとても白く綺麗で、誘拐し奴隷商に売りさばこうとしたそうだ。傷を付けないよう気絶させ、仲間のいる隠れ家へと隠した。

 気づくと鎖で繋いだはずの少女はふらふらと隠れ家を出て、盗賊の方がみな鎖に繋がれていた。


 それを根に持った一人が夜の道で少女を見つけると、死角からナイフで刺し殺した。

 仲間に報告しようと隠れ家に向かうと、殺したはずの少女はふらふらと現れた。

 無傷の少女はナイフの忘れ物ですと一言添えて。


 その後も同じような噂が絶えることはなかったという。


 わたしは噂を聞いている時からずっと誰かに見られていたと思う。間違いなく、その少女に。

 その証拠と言わんばかりに、日記帳がない。一度たりとも無くしたことはないそれは確実の証明だった。


 日も暮れて、野に宿を取る。

 私は二人分の夕食を作る。いつからだろう。二人分の食器がある。コッヘルもこんなに大きかっただろうか。焚いた火に魚を炙り、薄味のスープを温める。これも全部二人分だ。


 その少女は現れた。

 どこか私に似ている彼女はリィン。

 わたしは彼女の名前を知っている。

「日記帳、返してくれるか?」

「きょうはわたしのばんだよ」

 ああ。ああ、そうだった。今日の日記当番はリィンだった。そうだった。そうだった。

「冷めないうちに食べよう」

 いつからだったか。かわりばんこで日記を書くようになったのは。ずうっと前から、そうだったっけ。

 「コルネットおきて」

ほら、と木桶を転がしてわたしの頭にこつんとあたる。朝の弱いわたしを起こそうと、決まっていつも水を汲ませる。いつもそうだ。

 何気ない朝食を済ませ、次の街へ出発する。あてはない。いつもそうやってきた。


 旅は続く。それは違和感なく、古びた歯車が噛み合うように続いて。


「ゆめはさめた?」

「もうぱっちり」

 わたしは知っている。

 今までずっとリィンと過ごしたこと。これからずっと一緒にいること。

 それと、今も夢を見ていることを。




Auf:witchcraft | 2016.10.15 - 14.12

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます