シオノシトネ

 二人は船着場ちかくの宿の窓から裸足をほうり出すようにぶら下げていた。やや温い潮風を浴びて待っているのは、二日後に出る隣島への船便だ。

 薬の切れた病院にありったけの薬を届けに行く途中なのだ。もちろん、少しだけ割高でね。


 それにしても釣れない。

 ここへ来て二日目のこと。借りた竿を垂らして、もうじき夕方になる。離れたところにいる釣り人はそこそこに釣れていたのだが、うまくいかないものだ。

 リィンなんか昼過ぎには釣竿を置いて、うとうと寝ていた。


 夕暮れ。いつまでも寝ぼけたリィンをゆさゆさと起こしていると、ボロボロの船が目の前につけた。

 見るからにこの辺りの船とは見た目が違っていてとても小さい。尚且つ何時沈んでもおかしくないほどに古びている。

「にんげんいるよ」

「人ね」

「ひとのあいだはね」

 リィンの一言が無ければ無人の船かと思うほどだ。覗き込むと騎士のような足鎧がみえた。重装備の割に合わず肉はやせ細っていた。仕方なく、そのにんげんとやらを降ろす。


 鎧の男は降りて早々、夕食を奢ってくれた。私らが釣り損ねたからとお願いした魚料理だ。昔騎士だったらしく金銭には余裕があるという。


 聞くと、この船町はもともと紛争が絶えない地だったそうだ。男も騎士として兵を率い、争ったのだという。

 けれどそのうち、無為な争いに仲間を奪われることに耐えられず船で逃したのだという。しかし船は小さかった。仲間を乗せて遠い地へ行くには食料など詰め込む場所などなかった。それに気づくと、仲間想いの騎士を慕っていた兵は、ひとり、またひとりと海へ沈んでいった。あんたの兵で本当に良かった。そう言って最後は彼ひとりになってしまった。

「だがここはもう平和なんだろ」

「そうみたいですね」

「……あいつらの墓を作って、やらんとなあ」


 話には続きがある。

 男は離れた地でしばらく暮らしたのだが、この街の紛争を止めるために命を使うと決意した。塩風で錆びた直剣を研ぎ、船に乗り込んだ。

 その後、まっすぐにはこの街へたどり着けなかった。やっとの事で今日たどり着いたのは、四度の冬を超えてのことだそう。


「おじさんごはんありがとう」

礼を言って宿に戻った。


 翌日の船便で薬を届け、帰ってくると男に一言あいさつに行った。

 人伝てに聞いて回ると男は牢に入れられていた。ぐったりともたれ、剣を握る拳は力なく開いている。

 ただ一本を除き、刃の錆びた直剣がいくつも壁に立てかけてある。不器用なりの丁寧さで。

「お嬢さんたちよ、平和ってこんなだっけかなあ」

「さあ」

「なんかよ、俺が負けた方の勢力だとかで牢屋行きになっちまった。仲間の形見も一緒だ」

「ほかのみんなはへいわだよ」


 男は言う。最後に願いがある。まだ錆びてない剣に海水を浴びせてくれと。

 塩に濡れたそれを渡して二人は去った。


 船町の牢には墓がある。

 それは塩に錆びた直剣。

 それは平和に沈んだ騎士らの眠り。




Auf:witchcraft | 2016.10.15 - 14.12

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