イズミノ

 ここは工業で栄えた街。各所に水道が敷かれ、豊かな暮らしを営むところの中心に、噴水の広場があった。

 特に用もないこの街で休息をとっていると、昼の鐘がゴーンゴーンと鳴った。それと同時に大勢の人が広場に押し詰めた。

 皆が一様に深底のコップを持って、噴水を汲んでは浴びるように飲んだ。いやに心地よさそうで、なるほど憩いの広場だ、といったところだ。石畳に染み付いた町の色がどこかふるびた歯車を連想させた。


 程なくして人がひいた。

 一人ぽつんと拗ねた顔の少年が座っている。なんとなしに見ていると、僅かな視線が気になったのか近くの聖堂に入っていった。


 周りに誰もいない事を確認して噴水を汲んだ。リィンと私で少しずつ啜ると、ただの水ではなかった。


 少年の入った聖堂に失礼して、司祭に少し話を伺おうといったところ。がらんとしている中に司祭らしき人物とさっきの少年がいる。

 少年が何やら駄々をこねているようにも見える。司祭らしい人がこちらに気づくと、ばつが悪そうに場を去っていった。


「旅の者だ。何か悩みでもある?」

少年はこくんと頷く。

「聞いても?」

 それから教会を出て噴水の広場に出た。端の方に座っている。どうやらこの子のお気に入りの位置とやらがあるらしい。

「お姉さん達、飲んじゃった?」

「少しね」

「なんともない?」

「よく薬を扱ってるからね」

そう、と言って話してくれた。


 この噴水の蛇口の元には『ツユクサ』と呼ばれる麻薬が沈んでいるという。毎朝この子がそれを入れているそうだ。辛い仕事をしている人に飲ませると、なぜか少し楽しそうになる。少年は、住民がそれに依存して飲み続けるのを見るのが辛いのだと。

 司祭は『重労働を強いてやっと栄えたんだ。これぐらいしないと街がまた衰退してしまう』と。ツユクサを精神の麻痺に使っているのだろう。司祭の歳が相当にいっているからと、この子に継がせるつもりらしい。


「どうしたらいい?」

「一つは今のまま、ずっとツユクサを入れ続けること。でも、それは辛いんだよね」

また、こくんと頷く。

「じゃあ残りは二つだ。ツユクサの代わりにコレを入れる。」

カゲゴロシの瓶詰めをカラコロと見せる。これが毒消しであること、二三日である程度の依存が抜けることを説明した。

「もちろん司祭の言う通り、住民が重労働に耐えられなくなって街が衰退するかもしれない」

 さらに続ける。

「最後の選択肢は君もこの噴水を飲み続けることだ」


 少年が長いこと悩んでいるものだから、余っているカゲゴロシを少年に渡して街を去った。

 その後、あの街が衰退したなんて噂は聞くことはないし、駄々をこねる少年を見る者も現れなかったという。




Auf:haptik | 2016.07.18 - 10.15

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