第141話 転生者は異世界で何を見る? -連行-

「んん~? こいつどっかで見たことあるような……?」


 最初に背後から切りかかってきてぶっ飛ばした男の顔を覗き込みながら、過去の記憶を掘り起こしていく。

 この世界での知り合いはそんなにいないはずだけど……。


「あれ……、この人こないだ素材の報酬横取りしようとしてた人じゃない?」


 記憶の発掘をそろそろやめようかというときに、そんなフィアの声が聞こえてきた。

 改めて地面に転がる男の顔を見るとなるほど、あのとき突っかかってきた冒険者っぽい気がしてきた。

 そういえばそこそこ強いって話だったけどどんなもんなのかな。

 ちょっと鑑定してみるか。


 ――――――――――――――――――

 名前:ブレンゾン

 種族:人族

 性別:男

 年齢:32

 職業:盗賊 Lv33


 Lv:28

 HP:134/1036

 MP:124/211

 STR:354

 VIT:256

 AGI:789

 INT:102

 DEX:788

 LUK:98


 特殊スキル:

 【短剣術】【隠密】


 称号:

 【外道】【殺人】

 ――――――――――――――――――


 うーむ。それほどでもなかったかな。

 しかし【外道】ってなんだよ。相当非人道的な言動をやらかしたのか。

 【殺人】の称号まであるし、こんなのがつくぐらいのヤツなら、そこまで良心が痛まなくていいな。


「とりあえずギルドに連れて行ってみるか」


「そうだね」


「フィアは瑞樹をちょっと見てやってくれ」


「はーい」


 瑞樹はまだ顔が青い気がするのでフィアに任せておくことにする。

 その間にアイテムボックスからロープを取り出すと、倒れている男三人をぐるぐる巻きにして縛り付ける。

 このままギルドまで引きずって行けばいいだろう。

 ギルド職員にでも聞けばあとはどうにかなるかな。どうにもならないならもう放置でもいいし。


「よし、行くか」


 三人を縛り付けたロープを持ってギルドへと向かう。

 足に括り付けたロープなので、容赦なく後頭部で地面を削りながらだが容赦はしない。

 しばらく歩くとギルドが見えてきた。周囲の人間が、地面を引きずられる人間を見て何か囁きあっているが、こちらに声を掛けてくる人物はいない。

 そのままギルドへと入ると、ちょうどお昼時なのかあまり人がいないようだった。並ばなくていいのであれば都合がいい。


「おう、デクスト」


 見知った職員がカウンターの前で暇そうにしていたので声を掛ける。

 そういえばあの防具屋はこいつに紹介してもらったんだったな。

 もしかして俺たちはこいつの撒いた餌にまんまとかかったんじゃなかろうかと邪推してしまう。


「んん? どうした? ――って、そいつらは」


 カウンターの前に誰も並んでいなかったからか、デクストが奥からこちらに移動してきてロープでぐるぐる巻きになっている冒険者を覗き込む。


「襲って来たんで返り討ちにしたんだが、こういうのってどうしたらいい?」


「返り討ちって……、お前なぁ……」


 呆れたようにデクストが呟くが、ギルド職員としての職務を思い出したのか一応答えてはくれるようだ。


「街の守衛のところに連れて行けばいいじゃねーか……。なんでギルドに連れてきたんだ」


 人の少ない時間帯ではあったが、他の冒険者たちが引きずられている人間が誰だか気づくと、わらわらと集まってくる。

 中には罵声を浴びせながら蹴りを入れているヤツまでいる。

 相当ひどいことをやってきたらしい。

 俺としてはどんな報いを受けたところでそんなに興味はないが、瑞樹の顔色が悪いままなのでそろそろやめてもらいたい。


「あー、すみませんがそこら辺にしてもらえませんかね。ツレがドン引きしてるんで」


 俺が声を掛けると一応報復を止めてくれたようだ。

 【パラライズ】で麻痺させているので、簀巻きの三人は何も反応ができない。

 改めてデクストに向き直り、どうしたらいいかわからなかったのでデクストに聞きに来たことを告げる。


「そ……、そうか……」


「そういうことなんで、守衛さんところに突き出してくるよ」


「……ああ、そうしてくれ」


 なんだか疲れたような様子のデクストだが、諦めてくれ。

 威張って言えることじゃないけど、俺はこの世界の人間じゃないからね!


 瑞樹を確認してみるが、さっきからフィアにしがみついたまま離れる気配がない。

 顔色が悪いのでそこはちょっと心配ではあるが、なんというかこう、美少女が二人寄り添っているのは絵になる。


「瑞樹。今からこいつらを守衛さんのとこに持っていくけど、どうする? ここで待ってるか?」


 自分を襲って来た人間の顔など見たくないだろうと思って声を掛ける。

 俺の顔とフィアの顔を交互に見た瑞樹は、


「フィアさんと一緒にいる……」


 と一言返答すると、さらにきつくフィアにしがみつくのだった。

 そんな瑞樹をフィアはよしよしと頭を撫でている。


「わかった。じゃあちょっと行ってくる。ここで待っててくれ」


 ギルドの中であれば外よりは安全だろう。今の時間帯は人が少ないとはいえ他人の目もあるし、ましてギルド内での諍いはご法度だ。

 デクストから守衛事務所の場所を聞いた俺は、さっそく三人を引きずって向かうのだった。

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