第101話 転生者は異世界で何を見る? -薬草採集-
「やっぱり家のベッドが一番だよな……」
瑞樹の隣の二人部屋へとフィアと共に戻り、部屋のベッドへと腰かけながらそんなことを呟く。
部屋の真ん中に小さなテーブルと椅子が置かれており、それを挟み込む形でベッドが二つ置かれている。
硬い木のベッドには辛うじて布が敷かれているが、敷布団といった厚めのものではない。
部屋の作りとしては大通りにあるギルド前の宿ということもあり頑丈にできてはいるが、隙間などが見られることからそこまできっちりしたものではないらしい。
快適さよりも安全性を取った形だろうか。
戻ってきた時間帯としては夜明け前と言ったところだ。ちょうど空が白み始めたところだろうか。
さすがに寝る時間が早かったせいか、こんな時間でも気分がスッキリしていて眠くはない。
「あんなに気持ちよく寝られるベッドなんて他にないよ……」
フィアも備え付けのベッドに座りながら、その硬い寝床をパシパシと叩いている。
そりゃ日本製のベッドですから、そこら辺の異世界製に負けるわけないだろう。むしろ勝負にすらなっていない。
そんなこんなでしばらくベッドの話を小声でしていると、部屋の扉がノックされる音がした。
「誠さん、フィアさん、もう起きてる?」
ハッと身構えるが、掛けられた声に体に入れたばかりの力を抜いて返事をする。
「起きてるよ」
フィアはそのままベッドを降り、瑞樹を迎え入れるべく部屋の扉を開けた。
「おはようございます」
「――お、おはよう……」
扉を開けたフィアはそのまま俺の隣に腰かけるが、挨拶を返した瑞樹はその場から動かずに入ってこようとしない。
「……どうした? 何か用があったんじゃないのか?」
「……ゆ、ゆう……」
ドアの前で何か言いたそうにしているようだが、何を言いたいのかはっきりと聞こえない。
「……んん?」
「昨夜は、お楽しみでした……、か?」
顔を寄せて聞こえるように乗り出してみると、ようやく聞き取れたのだが。
「なんで疑問形なんだよ」
「――??」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言われても、まったくもってこっちがからかわれたと思うことなんてできない。……からかったんだよね?
フィアに至ってはネタがわからないので小首を傾げて眉を寄せているだけだ。
昨日からかわれた仕返しでもしたかったのかね。にしては自爆しすぎだろうが。まったく
「……いや、すぐ寝ちゃったから誠さんたちの様子は知らなくて」
正直者か。そこは言いきらないとダメだろ。
そこでようやく廊下に突っ立ったままだったことに気づいたのか、部屋へと入って扉を閉めると俺たちの向かいのベッドへと腰かけた。
「……二人部屋だけど、部屋の広さはおれんとこと変わらないね」
そうなのか。それだと一人部屋の宿泊費はちょっと高くなってもいい気がするけど、……同じ値段だったよね? そもそもそういう考え方がないのかな?
「で、何か用があるんだろ? まさか俺たちをからかいに来ただけとは言わないよな」
「ああ……、それはもちろん……」
自分で言ったセリフを思い出したのか、また恥ずかしがっている。いつまで自爆する気だ。
「こんな時間だけどさ、冒険者ギルドに行ってちょうどいい依頼がないか見に行かないかと思ってさ……。
二十四時間開いてるらしいし、この時間なら空いてて、文字の読めないおれたちの相談にも乗ってくれそうじゃない?」
「うん、まあそうだな。……にしてもえらい積極的だな」
俺の言葉に頷きながらも腕を組んで考え込む素振りをする。
「いや、昨日の報酬を見て思ったんだけど、さすがに毎日ギリギリの生活はしたくないというか、余裕が欲しいというか……」
なかなか危機意識の高い元男子高校生である。もしくはこの手の小説とかが好きなんだろうか。
とは言え、『転生者は異世界で何を見る?』の主人公に選ばれるだけのことはある。……実際の主人公とは別人のようだが、資質としては持っているようで。
本当にそこら辺の日本人がこんな異世界に飛ばされたとすれば、生き残れる確率なんて相当低いんじゃないかと思う。危機意識が低く村人や盗賊に騙され、餓死したり誰かに殺されたりと、そんな未来しか見えない。
ま、都合のいい考えだとは思うけど、適応能力があるんならそれはいいことだ。
「まあそうだな。それには俺も賛成だ」
少し逡巡したあとに言葉を続ける。
「そうだな……、俺には【鑑定】があるし、森での薬草採集とかあれば受けてみないか? 探すのに苦労はしないと思うぞ」
ついでにいろいろ瑞樹に打ち明けて、誰もいない草原や森で瑞樹に魔法を教えられるかもしれないし。
「おぉ、マジか。なんというチートの使い方。……稼げそうだね」
俺の提案にどうやら瑞樹もノリノリのようだ。
「採集の依頼があればだけどな」
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